“阪神タイガース仕様”辞書 オリジナル用例は3語のみ〈ベストセラー街道をゆく!〉

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三省堂国語辞典 第七版 阪神タイガース仕様

『三省堂国語辞典 第七版 阪神タイガース仕様』

著者
見坊豪紀 [編]/市川孝 [編]/飛田良文 [編]/山崎誠 [編]/飯間浩明 [編]/塩田雄大 [編]
出版社
三省堂
ISBN
9784385139241
発売日
2018/03/01
価格
3,300円(税込)

インパクト大の意匠の裏に日本語の「今」を担う自負

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 1家に1台、なんて言い回しがあるが、20年前までは国語辞典のたぐいもそうやって数えられるもののひとつだったように思う。だが今では少子化の影響に加え、電子辞書やオンライン辞書の利用が主流になり、紙の辞書の市場は毎年数%ずつ縮小。戦況は厳しい。

 そんな逆境をものともせず、POSデータを大いに賑わせているのが『三省堂国語辞典 第七版 阪神タイガース仕様』。刊行が発表されるや予約が殺到し、発売の10日前に重版が決定。合計4万部の快進撃だ。

 なにしろこれ、見た目のインパクトがものすごい。伝統の縦縞が印刷されたケースの表にはおなじみの虎マークが、裏側には球団旗があしらわれ、帯には六甲おろしの歌詞。本体のビニール表紙は期待を裏切らない黄色×黒のカラーリングだ。ちなみに表見返しには黄色い風船に染まった甲子園球場の写真を全面掲載しているのだが、よく見ると相手チームが巨人の時の試合というのもまた心憎い。

「紙の辞書を利用してもらうためには、モノとしての価値や存在感を楽しんでもらう必要があります」と語るのは三省堂の宣伝担当者だ。人びとの心に広く訴えかけられるもの、ということで、当初は漫然とスポーツを思い浮かべていたところ、「阪神で間違いない」と熱弁する者たちが社内に出現。いわばトラキチたちの熱意に引っ張られる形で進行した企画だが、「いざ形にしてみると、タイガースというのはデザインが飛び抜けて“強い”。意匠に力があるんです。これならいけると確信しました」(担当者)。

 では内容はというと……意外にもトラキチ仕様のオリジナル用例付きは3語のみ。物足りなさを感じるファンもいるかもしれないが、「あくまでこれは『三省堂国語辞典』ですから。その本分を味わってもらいたいなと」(同)。「三国」の愛称で知られる同書は、「日本語の“今”を反映した辞書」として名高く、「ガチ」をはじめ「上から目線」「中の人」などの実用的な新語や用例が多数掲載されている。

「“生きたことばを使う愉しみ”そのものに触れていただくことが本望です」(同)

新潮社 週刊新潮
2018年3月29日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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