首相番記者が見た永田町の人形劇

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自民党秘史 過ぎ去りし政治家の面影

『自民党秘史 過ぎ去りし政治家の面影』

著者
岡崎 守恭 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784062884600
発売日
2018/01/17
価格
864円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

首相番記者が見た永田町の人形劇

[レビュアー] 山村杳樹(ライター)

 ロッキード疑獄で有罪判決を受けて一年余の一九八五年一月の目白・角栄邸。折から、田中派内部では、竹下登が創政会を結成し世代交代の動きを見せていた。“闇将軍”はブランデーのロックをがぶ飲みしながら番記者を指さし、「お前たちはいい男だ。俺に娘がもう一人いればその婿にしたいくらいだ。しかしお前たちの心の奥まではわからない。毎日でも通って来い。俺が試してやる」と言い放った。番記者の一人だった著者は、この時、角栄の目が潤んでいることに気がついた。これが、翌月、脳梗塞で倒れ言葉を失うことになる元宰相が、番記者たちにかけた最後の言葉となった。

 本書には、日本経済新聞社で、田中角栄、中曽根康弘、竹下登らの首相番記者などを経験した著者が、政治取材歴四〇年のなかで直接見聞した様々なエピソードがちりばめられている。登場するのは、田中六助、金丸信、小渕恵三、森喜朗、藤波孝生、加藤紘一、山中貞則、原健三郎といった個性派の面々。

 自意識過剰が鼻につく中曽根、玄人好みの宇野宗佑、地味さが身上の藤波孝生……といった俳句からみた月旦も興味深いが、本書の魅力は、なんと言っても著者が身近に接した政治家たちが、修羅場に見せた立ち居振る舞いの人間味にある。

 例えば、森喜朗首相の退陣を求めた「加藤の乱」では、政界でもいち早く携帯電話や電子メールを習得していた加藤紘一が、連日、全国から届く千通ものメールに煽られた面もあったという。

 その他にも、小泉純一郎首相の電撃的な北朝鮮訪問にいたる日朝交渉の裏舞台の「秘話」も印象に残る。

 当時の交渉担当者だった田中均・外務省アジア大洋州局長は、北朝鮮側に「首相動静」欄を示し、いかに首相と緊密な連絡を取り合っているかを北朝鮮にアピールして「ミスターX」の信頼を勝ち取ったという。小泉首相は、交渉担当者をごく少数に絞って厳格な秘密保持を行ない、当時、官房副長官として官邸の中枢にいた安倍晋三も、蚊帳の外に置かれていた。この遺恨があったために、後に、安倍首相は、自らの外交政策を批判した田中を「彼に外交を語る資格はありません」とフェイスブック上で激しく罵ることになったのだという。なるほどと思わせるエピソードである。

 振り返って昨今の永田町を見れば、私的な親交を政治の場に持ち込み、稚拙な感情をまき散らす最高権力者と、その下に群れ集い、恥ずかしげもなく阿諛追従するロボット議員たち、といった寒々しい光景が広がっているばかり。時代が違うと言えばそれまでだが、少なくとも著者が見聞した永田町では、愛憎を抱えた生身の政治家が、生々しい人間劇を繰り広げていた。それが国民にとって、幸か不幸かは別問題としてだが。

新潮社 新潮45
2018年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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