[本の森 仕事・人生]『本のエンドロール』安藤祐介/『天龍院亜希子の日記』安壇美緒

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本のエンドロール

『本のエンドロール』

著者
安藤 祐介 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062209885
発売日
2018/03/08
価格
1,782円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

天龍院亜希子の日記

『天龍院亜希子の日記』

著者
安壇 美緒 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087711363
発売日
2018/03/05
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 仕事・人生]『本のエンドロール』安藤祐介/『天龍院亜希子の日記』安壇美緒

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

「営業」と言えば、自社の製品やサービスを他社に売り込むのが仕事。「得意先を回って顔つなぎをし、商品の紹介、売り込みをすること。また、新しい得意先を開拓すること」(大辞泉より)。その定義からはちょっと外れた「営業」の仕事を描く小説を二作、ご紹介します。

 サラリーマン小説に定評のある安藤祐介が手掛けた『本のエンドロール』(講談社)は、印刷会社で働く営業マン・浦本学が主人公だ。出版社の編集者から依頼を受け、本文レイアウトや装丁デザイン、印刷や造本に至る一連の流れを、本の発売日に合わせ滞りなく進めるのが主な仕事。しかし、主人公はまだ新米の甘ちゃんで、印刷職人から「無理な要求でも、お客様のお言葉をそのまま現場に伝えるだけ」ゆえに「伝書鳩」という汚名を頂戴。そんな彼が、部署ごとに異なる矜持を持つプロフェッショナル達とコミュニケーションを重ねていくうち、自らも本造りに携わる一員として積極的に意見を出し、みんながやり甲斐を持って働ける環境作りを担うようになる。「浦本さん、恐ろしい営業マンになりましたね……」と、最高の褒め言葉が放たれる瞬間の快感たるや!

 もちろん、この題材を選んだ必然として、右肩下がりの出版界をドキュメントする視点も盛り込まれている。が、目の前の依頼に応えて良い仕事をすることこそが、次の仕事に繋がる。未来を作る。その結論=出発点へと常に立ち返っていく主人公の姿には、職種を越えたメッセージが宿る。

 第三〇回小説すばる新人賞を受賞した安壇美緒『天龍院亜希子の日記』(集英社)は、人材派遣会社の営業マン・田町が主人公だ。小学校時代に名字をからかって泣かせた同級生「天龍院亜希子」のブログを見付け、その何気ない日常の描写から己の人生を振り返っていく。彼に多くの悩みをもたらすものはやはり、仕事だ。契約を結んでいる企業から依頼を受けて、先方の求める能力に見合った派遣社員を差配。その最適なマッチングを見繕う内勤の事務仕事の他に、営業マンの彼には「外回り」の仕事がある。紹介を決めた派遣社員と企業との顔合わせに立ち合う、「面談引率」だ。ある時、女性だらけの職場で鬱屈を膨らませていた主人公が、偶然引率することになった同性の派遣登録者に友情を感じたことから、物語は思わぬ方向へ動き出す。

 誰かと共に働く環境下で生じる、ちょっとした憤りや言葉を呑み込まざるを得なくなるような感覚が、言葉で見事に写し取られている。そのリアリティを確保したうえで、「希望」を描くとしたらどのようなものになるか? ラスト二行が絶妙。自分の仕事はきっと、はっきり目には見えずとも、誰かのためになっているんだと信じられるようになる。

新潮社 小説新潮
2018年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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