「神」が引き起こすドタバタ ギャグ炸裂もクセになる

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  • ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所
  • 長く暗い魂のティータイム
  • さよなら神様

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「神」が引き起こすドタバタ ギャグ炸裂もクセになる

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 2001年に世を去った英国作家ダグラス・アダムスは、宇宙の究極の謎にあっさり答えを出した『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズで有名だが、他に、型破りな私立探偵が主役の長編を2冊書いている。

 1987年に出た『ダーク・ジェントリー 全体論的探偵事務所』(河出文庫)は、あっと驚く大ネタが炸裂する、奇天烈本格ミステリ。全体の8割くらいまで、いったい何が起きているのか意味不明だが、“真相”が明かされた瞬間、世界が鮮やかに反転。そこから先はミステリを置き去りに明後日の方角へ爆走する。

 この3月に邦訳が出た『長く暗い魂のティータイム』(原書88年刊)はその続編。探偵はのっけから寝坊して依頼人との約束に大遅刻。屋敷に着くと、待っていたのはターンテーブルのレコード上で回転する依頼人の生首だった……。今回、役立たずの探偵にかわって大活躍するのは、ハンマーを振り上げた筋骨隆々の勇姿がカバーに描かれた、北欧神話の雷神トール(今はマイティ・ソーと呼ぶほうが通りがいいかも)。ヒースロー空港のカウンターで運悪く彼と行き会ったケイトともども、とんでもないドタバタ騒動の主役になる。一種のスラップスティック・ファンタジーだが、英国流のひねくれたユーモアをさらに3回転半ひねったようなギャグが1ページに1個以上の割合で投入され、ハマるとクセになる。ちなみにこのシリーズ、昨年までBBCアメリカで放送されていたTVドラマ版(話は原作とほぼ無関係)が、現在、Netflixで配信中。小説には登場しない助手役をイライジャ・ウッドが演じている。

 同じ神様ミステリでも、麻耶雄嵩『さよなら神様』(文春文庫)は、思いきりダークな展開と後味の悪さが特徴。毎回、小学5年生の鈴木太郎(に身をやつした神様)が「犯人は○○だよ」と宣言する場面で始まる連作で、語り手の桑町淳および久遠小探偵団のメンバーが事件経緯の解明に挑む(が、なにしろ神様の言うことは絶対なので、結論は揺るがない)。15年の本格ミステリ大賞受賞作。

新潮社 週刊新潮
2018年4月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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