『自民党秘史 過ぎ去りし政治家の面影』
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「秘」が炙り出す今の政治の「卑」
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
『自民党秘史』――それでなくとも生臭い党名の後に怪しく「秘史」とまで付く題名の政治モノ。出だしからして、「夜明けである。/廊下の足音が止まり、部屋の障子が静かに開いた」だもの、あれ、新書は新書でも新書ノベルス買っちゃったかと不安になる。
廊下の足音の主は総理になる前の中曽根康弘で、障子が開いた部屋に寝ていた新聞記者は著者の岡崎守恭。それはすぐに明かされて、日経の元政治部長の手になる、まっとうなノンフィクションだったと再認識できるのだけれど、続けて頁を繰っていると、再び頭をもたげてくるのは、いい小説を読んでるような錯覚。総理で言えば田中角栄から鳩山由紀夫までというニッポン政治の近過去について、手練(てだれ)のジャーナリストに打ち明け話を聞く。その贅沢が、たとえば維新の後から幕末の江戸を振り返る『半七捕物帳』に触れる愉しみに似てるもんですからね。
むろん、半七老の昔語りが「昔はよかったなぁ」式の単なる懐旧譚ではなく、実は明治という時代への批評でもあったように、岡崎の“過去の政治家”人物月旦も、現在ただいまのニッポン政治の惨状を照らす鏡。この本には俎上に載っていないのが不思議な政治家が何人かいて、福田赳夫とか安倍晋太郎とか小泉純一郎とか福田康夫とか。そういう見えない点を結んだ線の先にいるのは、さて――というミステリめいた手法が、声高な罵詈雑言よりずっとキツい批判になっているのが見事でもあり。