一億総中流から格差社会へ

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新・日本の階級社会

『新・日本の階級社会』

著者
橋本 健二 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784062884617
発売日
2018/01/18
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

一億総中流から格差社会へ

[レビュアー] 稲垣真澄(評論家)

「900万人を超える新しいアンダークラス(下層階級)が誕生」――とオビの惹句はいう。

 本書によると格差社会という言葉は、二〇〇四年の『希望格差社会』(山田昌弘著)などによって普及したが、最初に使われたのは朝日新聞の社説「『格差社会』でいいのか」(一九八八年一一月一九日)らしい。それよりも以前は、格差どころか逆に「一億総中流」意識がもっぱらで、平等性や同質・単一性こそが日本社会の強みでありユニークさだと強調されてきた。

 わずかな期間に日本人の自己認識は、方向を逆転したわけだが、しかし格差にしろ階級にしろ、現在それが一様で一律に受容されているわけではない。当然のことながら格差・階級を認めない層を含め、認めるにせよやむを得ぬものとして認めるか、あってはならぬものとして変革まで目指すか、その受容の幅はきわめて広い。本書は多くの社会調査の結果を統計学的に処理し、受容のされ方の特徴的なパターンを、資本家、新・旧中間階級、労働者階級などの各階層モデルに対応させて示そうとする。いわば「可視化された階級社会」か。

 その際、「やはり」と思うのは、資産、年収、学歴、自己評価、健康などの諸指標から見て、従来、資本家、新中間階級と労働者階級との間にあった社会の分断線が、明らかに移動していること。労働者階級が正規と非正規労働者とに二分し、前者は現代資本主義のメーンストリーマーとしてむしろ資本家、新中間階級と一つのグループに括られ、あらゆる矛盾を担う新たなアンダークラスたる後者と対峙するという構図である。

 もう一つ本書の特徴は、女性の階層帰属は男性よりも複雑で、本人や親の職業に加え配偶者によっても大いに左右されるため、たとえば「(本人)無職・(夫)資本家」「(本人)新中間階級・配偶者なし」などじつに三十類型にも分けていること(うち十七類型の場合が紹介される)。アンダークラスは「(本人)非正規労働者・配偶者なし」のケースで、困窮度は子供がいたりすると男性の場合よりはるかに深刻だ。

 格差、とりわけ世代を超える格差の固定化はあってはならない。対応策は何らかの「所得再分配」だが、社会が再分配を納得して行うには「格差が現に拡大中」「格差は自己責任にあらず」「格差は社会の負担」などの了解が、確実に共有される必要があるという。

 ただ、具体的にはどうしたらいいのだろうか。生物学において、博物学や分類学は対象とする物ごとの違いにこだわり精緻に描写したものの、その違いがなぜ生まれてくるかの探究は進化論まで持ち越された。やがて格差論でも新ダーウィン、新マルクスが生まれてくるかも。

新潮社 新潮45
2018年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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