人間として正しい肉食のあり方を考える

レビュー

4
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生き物を殺して食べる

『生き物を殺して食べる』

著者
ルイーズ・グレイ [著]/宮﨑 真紀 [訳]
出版社
亜紀書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784750515335
発売日
2017/12/23
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

人間として正しい肉食のあり方を考える

[レビュアー] 鈴木裕也(ライター)

「自分で殺した動物の肉だけを食べて暮らそう」

 そんな決意をした英国の女性環境ジャーナリストが体験した二年間を綴ったノンフィクション――。狩猟時代でもない現代社会で、食事すべてを狩りで賄うのはさすがに無理だろう。どんな苦しい体験記になるのか、ワクワクしながらページをめくっていった私は、すぐにガッカリしてしまった。畜産が地球に与える負荷を懸念する著者はヴェジタリアンで肉はめったに食べないのだ。彼女が決意したのは、少量食べる魚や動物の肉だけは工場式畜産物に頼らず、自分で仕留めて食べるということだった。

 な~んだ、とガッカリしたのは一瞬だった。このジャーナリストは読者である私を次々と興味深い世界に連れて行ってくれた。覚束ない手つきでライフルを手にしてウサギを撃つ、ノロジカを仕留めに出かけ失敗する、ロブスターやザリガニを罠で獲る。そして狩りを通して、生き物を自分の手で捕らえて捌き、口にする作業の大変さや、生き物を殺して食べることへの痛みや感謝の感情を真っ直ぐに伝えているからだ。

 彼女のこうした感情と真逆にあるのが工場式畜産だ。獲物に感謝し、食肉を通じて自然と繋がり、命について考える機会を私たちから奪っているからだ。私たちは動物たちがどんな扱いを受け、どのように屠畜されていくか知らないまま、スーパーで食べ物として加工された肉塊を買う。そんな“見えないもの”を明らかにするために、工場式畜産の現場や屠畜場を取材した著者のショックはセンシティブに過ぎると思ってしまうほど大きかった。しかし、英国が試みている人道的な畜産や屠畜への試みはかなり綿密に検証されており、英国人の国民性や考え方を非常に興味深く伝えている。

 この他にも、彼女は次々と体験を重ねていく。クレイ射撃のレッスンを受けてキジ猟を体験し、自分で仕留めた獲物を自分で捌き、ホームパーティで友人たちに振舞って食べる。交通事故死動物を食べる“都市型狩猟採集生活”を体験したかと思えば、海釣りやフライフィッシングに挑戦し、さらにはアカシカを撃つ。もちろん獲物は自分で調理して無駄なく食べていく。これらの体験だけを読んでも十分面白いが、体験するたびに語られる彼女の思いは、工場式畜産物に慣れ切った日本の読者にとって肉食を正面から考え直す、いいきっかけとなるはずだ。

 本書の原題を直訳すれば「倫理的肉食者」となる。生き物にとって残酷で環境負荷も大きい工場式畜産物を食べるのではなく、納得できる生産者から出荷された自分にとって快適なものだけを食べることを意味する。改めて言うまでもないが、それこそ人間らしい食のあり方なのではないか。

新潮社 新潮45
2018年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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