『死神裁判』 ヨハネス・デ・テプラ著
[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)
若妻を失い、子供と残された男、悲憤慷慨(こうがい)して死神を告訴、「すべての人々の残忍なる抹殺者にして、全世界に災いをなす(中略)死神殿よ、呪われてあれ!」と熱弁をふるう。冷静な死神が、「まず名乗れ」と出鼻をくじく。かくして、「私は農夫(中略)ボヘミアの地に住んでおります」と、弁論合戦が始まる。
「最高の宝を失い(中略)悲しんではいけない」のかと農夫は、裁判長たる神に、死神の処罰を訴える。だが、「正しく働く草刈人」(大鎌が「死神」の象徴)の死神は、「人間は誰でも一度は死ぬという債務」を負っているとして、不可避の死を説く。人間の果てなき欲望による自然破壊を咎(とが)める個所からは、エコロジー思想の萌芽(ほうが)も読み取れる。さて、神が出した判決は?
一四〇〇年頃に成立して写本で流通、やがて初期活字本のレパートリーに。「死の舞踏」ジャンルの先駆けで、写本の挿絵も興趣満点。修辞学の手引きだともいうから、声に出して読みたい。従来の『ボヘミアの農夫』に代わる、『死神裁判』とのタイトルで新訳された、ドイツ中世文学の名品。青木三陽、石川光庸訳。
現代書館、2500円