<東北の本棚>ネットと民主主義問う

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プロパガンダゲーム

『プロパガンダゲーム』

著者
根本聡一郎 [著]
出版社
双葉社
ISBN
9784575520439
発売日
2017/10/12
価格
722円(税込)

<東北の本棚>ネットと民主主義問う

[レビュアー] 河北新報

 大手広告代理店「電央堂」の就職最終選考は、宣伝によって仮想国家の国民を戦争に導けるかどうかを争うゲームだった-。大学生8人が政府とレジスタンスの2チームに分かれ、会員制交流サイト(SNS)を使って宣伝合戦を繰り広げる。学生はこの過程で何を考えるのか。最終選考の真の目的は何なのか。最後に待ち受ける衝撃的な展開に、ネット社会における民主主義とは何かを考えさせられる。仙台市在住の著者のデビュー作。
 ゲームは、仮想国家パレット国がキャンバス島の領有権を巡り、隣国イーゼル国と戦争するかどうかを国民投票で決定するという前提。今井貴也(レジスタンスチーム)と後藤正志(政府チーム)を中心に互いに情報戦略を練り、サイトに動画や画像、文章を投稿していく。国民投票はサイトにつながっている一般市民が行う。
 「政府を信じないで。政府はうそを吐きます」というレジスタンスの広報から始まり、「キャンバス島は我が国固有の領土。座して平和は守れない」と訴える政府。チーム内に相手チームのスパイも潜むという設定で、スリリングに展開する。
 勝敗が決まり選考が終わった後も物語は続く。参加した学生たちがゲームに疑問を持ち、ある仮説に行き着く。そして行動を起こす。「少数にしか利益のないシステムを、大多数の人たちに役立つものに作り替える。それができたら本当の意味で、革命でしょうね」。学生の1人が最後にこう語り掛ける。
 著者は1990年いわき市生まれ、東北大文学部卒。本著は2016年に電子書籍で発表した作品を加筆修正して文庫化した。
 双葉文庫03(5261)4851=709円。

河北新報
2018年4月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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