『ウマし』 伊藤比呂美著

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ウマし

『ウマし』

著者
伊藤 比呂美 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784120050626
発売日
2018/03/22
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ウマし』 伊藤比呂美著

[レビュアー] 尾崎真理子(読売新聞本社編集委員)

 詩人で東京育ちの著者は、米国の西海岸に長く暮らす。アメリカ人の夫を看取(みと)り、娘も巣立った今は作る人から食べる人に。それも好きな物を好きなだけ。で、どうなったか。ビールと甘い物と旅三昧の、確信犯的な子ども返りだ。

 めっぽう本能的で攻撃的な食にハマり、ウマさマズさをしがらみを忘れて語る、語る。

 べたべたに甘い米国のドーナツに獣めいた生命力を感じたり、英国人の好きなマーマイト(ビール酵母からできた黒っぽいパン用のペースト)を「江戸むらさき」そっくりの存在だと思ったり。五十余項、感情に任せているようでも、そこは現代日本を代表する詩人。本質的な比較文化論を必ずどこかに含んでいる。

 和食がユネスコの無形文化遺産になった時には、スシバーで無感情に成形されたそれを両面、しょうゆに浸しながらふと、感慨に襲われている。〈カリフォルニアに渡って来て幾星霜(いくせいそう)、日本語もご飯も忘れないが、後は忘れた。/あたしは誰だ。/あたしは、カリフォルニアロールである〉

 親友に枝元なほみ、平松洋子。最強。こんな破格の食べ物本があったでしょうか。

 中央公論新社 1400円

読売新聞
2018年4月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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