『次の震災について本当のことを話してみよう。』
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<東北の本棚>減災今から取り組みを
[レビュアー] 河北新報
最大で死者約32万人と想定される南海トラフ巨大地震が実際に発生した場合に起こり得る惨状を名古屋大教授(建築耐震工学)・減災連携研究センター長の著者がシミュレーションし、被害を減らすための具体策を提言する。平易な言葉ながら背筋の寒くなる内容に満ちている。
東海、東南海、南海地震が連動すればマグニチュード9級。普通の地震がリスクだとすれば「中部・西日本大震災」とも言えるこの未曽有の災害で起きるのはカタストロフィー、破滅だと著者は断言する。そして「見たくない」現実をあえて直視させる。
著者も参加した内閣府の検討会の被害想定では、震度6弱以上、または高さ3メートル以上の津波が襲う自治体の面積は全国の約30%、国民の半数が被災者になるという。
地盤の弱い都市部に人口が密集し、林立する高層ビルの安全性の検証は不十分。インフラは連鎖的にまひし、長期にわたり途絶える恐れがある。企業の事業継続計画(BCP)の多くは絵に描いた餅でしかなく、産業拠点が壊滅すれば日本は売りたたかれ、世界恐慌さえ引き起こすと警告する。
「まだ残された時間があると信じ、被害を減らす取り組みを全ての人が始めるべきだ」と著者。建物の耐震強化や家庭での家具固定を呼び掛ける。「大災害は全員が助かるのは難しい。備えている人が助かるのが現実」との言葉は重い。被害の大きさを強調しすぎる面もあるが、東日本大震災を経験した東北でも参考となることは間違いない。
1957年、名古屋市生まれ。日本地震工学会会長、中央防災会議作業部会委員。
時事通信社03(5565)2155=1620円。