<東北の本棚>南部弁で家族の絆描く

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

幸福な水夫

『幸福な水夫』

著者
木村友祐 [著]
出版社
未来社
ISBN
9784624601218
発売日
2017/12/26
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

<東北の本棚>南部弁で家族の絆描く

[レビュアー] 河北新報

 表題作「幸福な水夫」など小説2編とエッセー「黒丸の眠り、祖父の手紙」を収めた。小説のテーマは家族の絆や地方と中央の関係だ。会話を全て南部弁で通しているところに、作者の言語表現への強いこだわりが感じられる。
 「幸福な水夫」の主人公ゆずるは東京でアルバイトをしながら小説を書いてきたが行き詰まり、仕事を探している。故郷の八戸に帰省し、父の和郎、兄の守男、東京で飼い始めた子猫と一緒に下北半島の温泉旅館に行くことになる。
 和郎は政治家になる夢や、米国に移り住むチャンスを諦め、家族のためだけに生きてきた。交通事故と脳梗塞で体が不自由となり、家業を譲った守男との関係はうまくいっていない。旅行の途中でもトラブルが相次ぐが、和郎にはその温泉旅館へ行くべき深い理由があった。
 兄弟2人は、和郎の生き方に共感できなかった。ただ旅館のバーで「原発も再処理施設も金さえ積めば受け入れる」と地方をばかにする中央の開発業者と言い争ったことで、父の人生の重みに気付く。家族の絆や地方の誇りを取り戻していく。南部弁は分かりにくい箇所があるが、最後に構成上不可欠な要素であると分かる。タイトルは和郎の帽子の刺しゅうから取った。
 小説「突風」も家族の物語だ。主人公は役者になる夢を諦め、東京で日雇いで働く。舞台は憲法改正で自衛隊が日本国防軍になり、徴兵制度が導入された近未来。太平洋戦争に翻弄(ほんろう)された祖母の人生を振り返りつつ、憲法改正を田舎の人々が許してしまった背景や後悔を描く。
 エッセーは祖父が戦死直前に祖母に送った、素っ気ない手紙の意味を追う。「幸福な水夫」は2010年、「突風」は15年の作。「震災前と震災後では、ぼくの(小説の)書き方はガラリと変わってしまった」と振り返る。
 著者は1970年生まれ、八戸市出身。09年「海猫ツリーハウス」ですばる文学賞を受賞。
 未来社03(3814)5521=1944円。

河北新報
2018年4月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加