『テュポーンの楽園』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
破天荒な巨篇1700枚 7年ぶりの新作に大興奮
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
初春の日本ミステリー界では原りょうの一四年ぶりの新作『それまでの明日』が話題を呼んだが、本書は『心臓狩り』三部作以来七年ぶりの長篇。その前の作品は二〇〇一年刊の連作集『サイファイ・ムーン』だから、原に優るとも劣らぬ寡作ぶりだ。
しかし今回は四〇〇字一七〇〇枚の破天荒な大作に仕上がっている。待たされた甲斐があったというものだろう。
東京郊外の山間の街・阪納(はんのう)市の安須(あず)地区で住民の多くが洗脳される異変発生。政府は警視庁の特殊捜査班SITを送って大規模な捜査を進めるが、捜査員たちは何かに襲われ、次々と姿を消していく。現場には女性陸上自衛官・織見(おりみ)奈々三尉も同行していた。彼女は二年近く前、防衛装備庁の施設で行われた電磁波兵器の実験の際、旧知の技官の身に起きた異変を目の当たりにしていた。安須の異変もそこに端を発していたのだ。
SITの隊員たちは街中の捜査を進めるうち、奇怪な怪物と遭遇、程なく激しい戦闘が始まるが……。
モンスターものと聞いて思い浮かべたのはディーン・R・クーンツの『ファントム』だったが、テュポーンと名付けられた怪物の素性には他のクーンツ作品の着想も混じっている。序盤からそれが明かされてしまうのをいぶかる向きもあろうが、テュポーンの目的は後々まで伏される。著者は安須の住民が洗脳された過程を端折って、アクション優先で話を転がしていくのだ。
当然ながら、軍事先端技術の蘊蓄も盛り沢山。国家を挙げての怪物退治へと膨らんでいく展開は映画『シン・ゴジラ』も真っ青というべきか。
「バイオホラー、ミリタリー、アクション、モンスター――あらゆる要素を備えた、圧倒的スケールのエンタテインメント巨編!」という惹句通り、人類の行方を占うこの著者らしい大風呂敷の復活だ。傑作『二重螺旋の悪魔』、『ソリトンの悪魔』の興奮を味わいたいかたはぜひ!