もうムスリムはまさに隣人 地域に溶け込む彼らの実像

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お隣りのイスラーム――日本に暮らすムスリムに会いにいく

『お隣りのイスラーム――日本に暮らすムスリムに会いにいく』

著者
森まゆみ [著]
出版社
紀伊國屋書店
ISBN
9784314011556
発売日
2018/02/15
価格
1,870円(税込)

もうムスリムはまさに隣人 地域に溶け込む彼らの実像

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 イスラム教徒(ムスリム)はすでに日本では珍しくない。日本人教徒もいるし、世界中からやってきてそれぞれの地域に溶け込んでいる。

 そんな彼らに災厄が降りかかったのは9・11以降だ。ひと括りにされ、イスラム教徒全体が危険視されたのだ。冷たい疑惑の目にさぞ肩身の狭い思いをしたことだろう。

 彼らがいい意味で注目されたのは3・11だ。何はさておいてもと救援物資を車に積んで被災地に走らせるムスリム。困っている人へのこの並々ならぬ親切心、これこそがムスリムの本質ではないかと、皆あらためて思ったのだ。

 著者は雑誌『谷中・根津・千駄木』、通称「谷根千(やねせん)」の編集に長く携わり、東京の下町を紹介してきた。この下町のお節介とも言うべき「困っている人を見ると放っておけない」気質がムスリムと共通するのではないかと、ムスリムへの聞き書き取材を重ねる。

 出身国も職業も違う13人が登場する。パキスタン、イラン、バングラデシュ、ウイグル、シリア、インドネシア、チュニジア、トルコ、セネガル、パレスチナ、マレーシア、ウズベキスタン出身の人が、マスジド大塚(日本イスラーム文化センター)事務局長、レストラン店主、絨毯店店主、ハラールフード店店主、石けん販売、舞踊家、大使館勤務&沖縄民謡歌手、解体工事会社経営、人材派遣会社勤務、研究者、研究者&ジャズシンガー、ノン(インドのナンに似た中央アジアの主食)販売という職に就いている。

 シリアが出自の人は父親を第三次中東戦争で亡くしている。トルコ出身のクルド人は差別の中で生きてきた。そんなシリアスな話も彼らの口から出るが、我らと違う戒律さえも厳格に守る人がいて、一方に笑ってしまうほどいい加減な人がいるのだ。両者が元々そうなのか、それは日本にいるからこそなのか、その辺を想像するのも楽しい。

 彼らとは肌の色と母語が違うだけだ。彼らは紛うかたなき隣人であり、いわゆる「お隣りさん」なのだ。

新潮社 週刊新潮
2018年4月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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