人間の仕事はAIに代替されるか

レビュー

5
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AI vs. 教科書が読めない子どもたち

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

著者
新井 紀子 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784492762394
発売日
2018/02/02
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

人間の仕事はAIに代替されるか

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 全編、刺激的で、いろいろと目をひらかされた。いま読まれるべき本である。

 私のような文系人間は、「AI」と聞くと怯えてしまう。「ルンバ」のスイッチに何かものが落ちたかして勝手に動き出しただけで、お掃除ロボットに意思が宿ったかのように感じてドキドキする。粗大ごみに出したら復讐されそうだ。

 そんな風だから「シンギュラリティ」という言葉も誤解していた。人工知能が人間の知恵を超え、暴走を始める地点として、SF小説や映画は来るべき「シンギュラリティ」を描いてきた。近年、たくさん刊行されているAI関連書でも、「二〇XX年にシンギュラリティは来る!」などと煽るものを見かける。

 ところが、数学者である著者は「シンギュラリティは来ない」と断言する。そもそも「人間と同等レベルの知能」であるところの「真の意味でのAI」はまだ存在しておらず、「シンギュラリティ」というのは、「『真の意味でのAI』が、自律的に、つまり人間の力をまったく借りずに、自分自身よりも能力の高いAIを作り出すことができるようになった地点」だと定義する。

 いまAIと呼ばれている多くのものは、AIを実現するために開発されている技術にすぎない。名人を破った将棋ソフトも、Siriも、もちろんうちのルンバも、著者の言う「真の意味でのAI」には該当しない。AIが人類を滅ぼす未来は来ないであろうことが、この本には非常にわかりやすく書かれている。

 では人間の未来は明るいか、といえばまったくそうではない。著者は、「ロボットは東大に入れるか」という話題の研究プロジェクトを始めた人で、他の研究者と協力してAIの大学受験に挑んできた。数年にわたるチャレンジの結果、東大は無理だが「MARCH」と呼ばれる有名大学にはほぼ合格できるレベルに到達したという。

 すべてを論理、確率、統計に置き換え、意味を理解しないAIは、国語と英語が苦手だ。一方で、日本の中学生・高校生を対象に読解力調査を実施した著者は、いまの高校生の半数以上が教科書の記述の意味が理解できていない、という衝撃的な結果を明らかにする。つまり、AIが苦手とする分野は、半数以上の高校生にとっても苦手で、彼ら彼女らは人間がAIに代替されない仕事につくことは難しいというのだ。

 AIにできる仕事は代替される、というのはほぼ確実な未来図だろう。読解力調査については例がなく、過去との比較はできないが、半数以上の生徒が教科書に書かれていることを理解できていないと、これほどはっきり指摘されたことはなかったのではないか。歴史教科書以上に社会的議論を呼んでいいテーマだと思う。

新潮社 新潮45
2018年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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