ファミレスのランチでも「接待」は可能? 今こそ知っておきたい接待の基本

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成毛流「接待」の教科書

『成毛流「接待」の教科書』

著者
成毛眞 [著]
出版社
祥伝社
ISBN
9784396616441
発売日
2018/04/01
価格
1,430円(税込)

ファミレスのランチでも「接待」は可能? 今こそ知っておきたい接待の基本

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

成毛流「接待」の教科書』(成毛眞著、祥伝社)の著者は現在、書評サイト「HONZ」代表として有名ですが、そもそもアスキーなどを経て日本マイクロソフト株式会社の代表取締役社長となった経歴の持ち主。そう考えると、今作で「接待」をテーマにしていることにも十分納得できます。

接待は、時間がかかる。金がかかる。だから無駄だという経営者やコンサルタント、やりたくないという現場もいる。(中略)日本の企業では、研修として名刺交換の仕方やお辞儀の角度などは教えても、接待のノウハウは教えない。接待嫌いが増えたことで、それを口伝できる人物も社会から消えようとしている。 だから、私がこの本を書くのである。周りがしない接待を得意技として身につければ、これからの時代も生き残れる。ルーチンワークの効率化や英語が得意なAIに、接待はできないからだ。(「AIに、接待はできない。――まえがき」より)

準備が不十分な接待であれば、しないほうがいいとも著者は言います。しかしそれは、裏を返せば「準備をしておけばたいがいは成功する」ということ。作り込んだ接待は、する側も楽しめるものになるというのです。

効率重視で神経をすり減らすのではなく、「接待しながら大きなリターンを得て、楽しく働こう」と提案する本書のなかから、きょうは「飲み会」に焦点を当てた第4章「印象に残る飲み会は接待に匹敵する」を見てみたいと思います。

普通の飲み会でも接待できる

接待は準備次第。しかし、準備をすることなく流れで始まる飲み会だったとしても、工夫次第で接待とすることは可能なのだそうです。もちろん、接待のときのように事前に店を選び、予約をするということはできませんが、その飲み会を通じて以前よりも仲よくなることはできるというわけです。

だからこそ、仲よくなりたい取引先のことは、どんどん飲みに誘ったほうがいいのだと著者は主張します。用事があったり気が乗らなかったりすれば相手は断るでしょうが、それは当たり前のこと。むしろ、断られることを恐れてはならないというのです。

たとえば一緒に出張に行ったときなど、いつもと環境が異なるときは特に、気軽に誘ってみるべき。その結果、「いいですね、行きましょう」となれば次は店探しということになりますが、出張先の場合はどこにいい店があるのか、どこに飲食店街があるのかもわからなくて当然です。

そんなときにいいのは、出張先の支店の人、工場の人などにいい店を教わること。うまい店でも評判の店でもなく、あくまで「いい店」を尋ねるわけです。

店に入ってからは、基本的に接待と同じ。さっと切り上げるかとことん飲むか相手の希望を聞き、「だったらそうしましょう」と同意し、相手のしたい話を聞き、店の人とも仲よくし、あとは好きにすればいいということ。それでも十分に、相手にとっては楽しい飲み会になるというのです。

また、出張先から東京に帰ってきたあと、その日のうちに飲むというアイデアも。帰りの足の心配をしなくてすむので、著者はこちらのほうがおすすめだといいます。たとえば新幹線で出張から帰ってきたのなら、あえて東京駅構内の店で飲めば、帰りの心配をしなくてすむわけです。だからこそ、そこがありきたりな店でも特別な雰囲気を味わうことが可能。そうすることができれば、接待として成功だということです。(106ページより)

ランチでも接待できる。ファミレスも使い方次第

「夜は早く家に帰りたい」という人を接待するのであれば、ランチにも大きな利用価値があると著者はいいます。たしかにダイエットなどで夜の食事をコントロールしている人でも、ランチはしっかり食べるというケースは少なくないので、それは効果的かもしれません。

しかもランチとなれば、「どういう店を選ぶか」の選択肢も増えるはず。ホテルのレストランでもいいし、近所の評判の店でもいいわけです。そのうえ価格も抑えることができ、終わりが決まっているのでお互いに気が楽だというメリットも。

そして、極端なことをいえば、ファミレスでもいいというのです。たとえばデニーズのステーキはおいしいことで有名ですが、当然のことながらそのことを知らない人もいます。そこで、その話をして「本当においしいんですか?」と聞かれたら、デニーズのステーキランチに誘えばいいというわけです。

あまりにカジュアルなので、相手も接待とは感じずにつきあってくれるはず。時間も限られているためじっくりと話はできないかもしれませんが、“意外とおいしいデニーズのステーキ”を一緒に実感できれば、確実に距離は縮まるというわけです。

もちろんそれはほんの一例で、他にも接待に使える意外なお店があるかもしれません。そこで、普段は見逃しがちな店の、案外おいしいランチを見つけたら、フェイスブックやインスタグラムにアップするのではなく、「意外とうまい店を見つけたんです」という誘い文句に使うべきだと著者は主張しています。(109ページより)

相手の会議室から飲みに行こう。そして、「裏を返す」

さきほど「出張先からの接待」というアイデアをご紹介しましたが、もちろん出張先でなくても気軽に飲みに行ってOK。たとえば先方の会議室で打ち合わせが終わったのが夕方だったとしたら、そのまま飲みに行ってもいいわけです。その場合、先方の会議室にいるのですから、店選びは完全に先方にお任せすることができます。

すると、その会社、その部署、その人の行きつけの店に連れて行ってもらえることもありえます。著者によればこれは、その人の家に招いてもらったくらい大きな意味のあることなのだそうです。なぜなら、嫌いな相手を行きつけの店に連れて行く人はいないから。連れて行ってもらえるということは、憎からず思われているからだということです。

その店に行くと、店の人との会話やくつろぎ方、キープしているボトルなどから、普段は見えないその人の一面が見えてくることもあるはず。そういう発見も楽しく、なによりうれしいのは、その店の居心地がよかったとき。もしも自分の行きつけにしたいと思えるような店だったとしたら、趣味が同じ者同士、もっと仲よくなれる可能性があるわけです。

もちろんそういうときは相手に、「ひとりのときにここへ来てもいいですか?」と確認してみることも忘れずに。快諾してもらえるはずなので、その場合は言いっぱなしにならないよう、必ずひとりでその店へ行くことが大切。これは「裏を返す」と呼ばれる行為で、店にとっても、紹介者にとってもうれしいもの。

裏を返すにもコツがある。短期間のうちに通い詰めるのだ。週に1回を5週間にわたって続けるより、1週間の間、毎日通う。それが店に大きな印象を与え、覚えてもらえるようになる。その後は、1カ月くらい時間が空いても、忘れられることはない。 こういう店は貴重な存在なので、大事にするべきだ。間違っても、別の取引先などは連れて行ってはならない。(112ページより)

また、近場の行きつけの店ではなく、わざわざ遠くの店へ一緒に出かけるのもいいとか。時間をかけて訪れたその店が特徴的であればあるほど、強い印象が残るというわけです。(111ページより)

同世代とばかり飲むな

一緒にいる相手が同世代だと、なにかと気楽です。勤務先が違ったとしても、置かれた立場は同程度。育った場所が違っても、同じ時代を生きてきたのだから共通点が多いというわけです。しかし、あえて自分とは違う世代の人たちと飲むべきだと著者。いかにも「人脈を太くするため」というような理由がありそうですが、そういうことではなく、単純にそのほうがおもしろいからだというのです。

ある程度の役職に上り詰めた年配者は、必ずと言っていいほど、同世代では考えられないような、想像を絶する経験をしている。その話は間違いなく面白い。面白いだけでなく、その時代のリアリティが感じられる。 たとえば1980年代を知りたければ、その頃のことをネットで調べたり本で読んだりするのも結構だが、その時代にバリバリと仕事をしていた人の話を聞くと、どんな時代だったのかが実感できて、今との違いに驚くに違いない。 その驚きは、いつかどこかで別の人の1980年代の話を聞くときの最高のサポートになる。聞いていても話がわかりやすいし、質問もしやすくなる。自然と話は盛り上がる。(121ページより)

しかし同様に、若い人の話からも得るものは少なくないでしょう。勉強になるとか、なにかを教わることができるというよりも、若い人の現実がわかるから。同じ世代と話すのと、上の世代と話すのとでは別の感覚が楽しめるということです。

また、いまは取引先の“若手”だったとしても、いつかはその人が決定権を持つことになるはず。そのころにはこちらも代替わりしているかもしれませんが、それでも仲よくなっておいたほうが、仲よくならないよりはずっといいわけです。

それに、自分より若い人は自分より長生きする可能性が高いはず。ということは、若い人と仲よくなるということは、死ぬまで仲よくできる相手がいるということにもなるという考え方です。

これは「接待」とはやや離れた話ですが、なかなか興味深くはあります。 (120ページより)

マイクロソフト時代には、全世界のマイクロソフトの接待費の半分を使ったというだけあり、接待に対する著者の考え方には不思議な説得力があります。「接待なんか必要ないんじゃない?」と感じている方にこそ、読んでいただきたい1冊です。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年4月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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