女性へと性転換し“産役男”となる男たち『徴産制』田中兆子

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徴産制

『徴産制』

著者
田中 兆子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103353522
発売日
2018/03/22
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

女性へと性転換し“産役男”となる男たち

[レビュアー] 円堂都司昭

 少子高齢化が進む一方、政権が女性活躍をスローガンに掲げているのが現在の日本である。そうした状況を受けて近年、村田沙耶香『消滅世界』、川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』、窪美澄『アカガミ』など、婚姻や生殖、恋愛、家族の形が変貌した社会を描く小説が多く発表されている。田中兆子『徴産制』も、その種の思考実験による作品だ。

 新型インフルエンザの猛威で若い女性の大部分を喪った二十一世紀後半の日本で、国民投票により新制度が導入された。日本国籍を有する満十八歳以上、三十一歳未満の全男性が最大二年間は女になる「徴産制」だ。兵役につけば軍事教練を課せられるように、産役男は産事教練を受ける。徴兵制では兵士になることが義務だが、殺人そのものは義務ではない。同様に徴産制は子づくりが目的だが、婚姻や育児、また出産そのものは義務ではなく、女性になることが義務である。偽装結婚による産役逃れを防ぐため、制度は既婚者にまで適用される。本書では、立場の違う産役男五名の体験がそれぞれ語られていく。

 希少になった本物の女性は身の安全のため、ほとんど外出しない。それに対し産役男はニセの女と蔑まれ、特にブスはひどい扱いをされるが、男への慰安を求められる。徴産制反対デモは世論を動かせない。産役から脱走した逃産男は、捕まれば放射性廃棄物処分場がある村で過酷な目にあう。国から給料が出る産役を志願する移民もいるが、政府は少子化でも帰化申請を認めない。徴産制という設定の導入で、今の日本に存在する様々な差別や、個人の領域が国家の思惑に歪められる危うさを露悪的なまでに誇張して描いている。刺激的な作品だ。

光文社 小説宝石
2018年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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