思春期と性
[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)
2013年、『左目に映る星』(「アナザープラネット」を改題)でデビューして以降、力を感じさせる作品を着実に発表している奥田亜希子。すばる文学賞出身ということで純文学作家のイメージもあるかもしれないが、エンタメともいえるボーダーレスな作品世界を広げている。
新作『青春のジョーカー』は中学3年生の少年が主人公。基哉はクラスの中では友人二人とゲームについて語ったりしながら地味に過ごしている。そんな彼を何かとからかうのはリーダー格の啓太。憧れの同級生、咲が属する女子グループは啓太たちとも親しいが、どことなく男子と距離を置く咲は他の男子たちにとっても高嶺の花的存在だ。高潔さをまとう咲に惹かれながらも、家に帰れば彼女について性的な妄想をしてしまう。そんな自分に罪悪感を抱きつつ、基哉は非モテで童貞であることのコンプレックスをぬぐえずにいる。が、ある時、大学生の兄と同じサークルに所属する女子大生、二葉と親しくなり、二人でいる時に啓太と出くわしたことから、基哉のクラス内の立ち位置は少しずつ変わっていく。いってみればトランプゲームで切り札を出して革命を起こしたことで、立場が逆転したような状態。しかし……。
思春期の“性”について真摯に取り上げた一作。モテない男子の悩みを描くだけでなく、大人に見える二葉の隠された屈託や、教室のヒエラルキーのトップにいる男子だからこその葛藤、潔癖な人間の性に対する嫌悪感、さらには猫の去勢問題など、さまざまな角度から“性欲”に縛られてしまう生き物のやるせなさを浮かび上がらせる。そのことに誠実に向き合う基哉が好感度大。彼はきっと、将来素敵な大人になるだろうという予感が希望となっている。