『職場のハラスメント なぜ起こり、どう対処すべきか』 大和田敢太著

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職場のハラスメント

『職場のハラスメント』

著者
大和田 敢太 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784121024756
発売日
2018/02/22
価格
929円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『職場のハラスメント なぜ起こり、どう対処すべきか』 大和田敢太著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

被害者の視点が出発点

 ハラスメントという言葉はすっかり日常語として定着した。上下関係のなかでも、親しい仲間同士であっても、冗談や笑い話で済まされない言動はしっかり抑制されるべきだという認識を普及させた点では、「○○ハラ」という表現には充分な社会的意義があった。しかし、そうした礼節や気遣いのレベルでは解決できない深刻なハラスメントの厄介な点は、「どこから」「どのようであれば」それが具体的に対処(もしくは処罰)されるべき事案になるのかという線引きの難しさにある。

 従来のハラスメント問題解説本では、この線引きをもっぱら加害側からのベクトルで行ってきた。「かくかくしかじかがハラスメント行為なので、その発生を抑止するにはどんなルール作りをするべきか」ということに焦点をあててきたのだ。

 だが本書の特色は、開巻早々に、筆者が相談活動に携わった経験を踏まえ、「職場のいじめの被害者は、自分の直面している出来事が、個人的な悩み事なのかどうか、人権侵害である『ハラスメント』に該当するのかどうかという判断で、まず戸惑い苦しんでいる」と明快に記して、「被害側にとってのハラスメントの定義」を出発点にしていることだ。

 よく言われる「あなたがハラスメントだと感じたら、それはハラスメントなのだ」という定義づけは、一見誠実で厳格に聞こえるけれど、実はこの問題と正しく向き合った考え方ではない。人は(よほど他罰的な心性の持ち主でない限り)いじめや嫌がらせを受けて傷つくと、自分が周囲の人間関係の和を乱しているのではないか、攻撃されるのは自分に原因や非があるのではないかという不安に苦しみ、だからこそ軽々には「被害」を訴えられないのだから。本書は従来ほとんどすくい上げられることのなかったこの出発点での混乱と逡巡(しゅんじゅん)に光をあて、豊富な実例や判例を紹介しつつ、職場のハラスメントの現状をわかりやすく分析し、解決への道を提言している。

 ◇おおわだ・かんた=1949年福井県生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、滋賀大名誉教授。

 中公新書860円

読売新聞
2018年4月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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