『ベルルスコーニの時代 崩れゆくイタリア政治』 村上信一郎著

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『ベルルスコーニの時代 崩れゆくイタリア政治』 村上信一郎著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

政治の闇の深さ

 先頃のイタリア総選挙では、「五つ星運動」「同盟」(前身は「北部同盟」)とポピュリズムが勝利した。連立協議は難航、「反EU政権誕生か」の見出しも。ポピュリズムの元祖で「フォルツァ・イタリア」の党首・ベルルスコーニ(議員資格はない)は奇策を練っているのか。かつて「イタリア社会運動」、「北部同盟」と別個に協定を結ぶと、自分がオーナーのACミランにあやかって軽いフットワークで選挙に勝ち、第一次内閣を成立させた策士だ。

 彼を政治文化の象徴として、戦後のイタリア政治を描いた興味津々の本。ミラノ大学法学部を優秀な成績で卒業したエリートは、社会党のクラクシなど同窓ネットワークを活用していくが、最初から闇の部分がつきまとう。父親が幹部の銀行の経営者はパレルモの実業家で、マフィアとつながるキリスト教民主党の領袖(りょうしゅう)アンドレオッティの代理人、銀行はマフィアの資金洗浄機関だった。

 その資金で、不動産業界で成功すると、ミラノ郊外の住宅団地に設置したケーブルテレビを出発点として、メディア王となるが、そのアイデアがすごい。全国放送は国営放送RAIだけの頃、アメリカから映画やドラマを買い付けて、スポット広告を挟んだビデオを作成し、各地の放送局に発送、同時に放送させて、自分のローカル局を全国ネットのごとく装うことで、広告料で儲(もう)ける仕組みを発案したというのだから。

 事実は小説よりも奇なり。マフィアと共に政界を裏で操る、「プロパガンダ・ドゥエ(P2)」というフリーメーソン系の秘密結社がある。彼もメンバーで、やがて傘下に入る名門新聞『コッリエレ・デッラ・セーラ』の乗っ取り資金は、P2と縁の深いヴァチカン銀行から。P2とヴァチカン銀行、アンブロジアーノ銀行のカルヴィ、マルチンクス大司教、不審死したヨハネ=パウロ一世を加えれば、映画『ゴッドファーザー3』だ。イタリア政治の闇の深さよ。

 ◇むらかみ・しんいちろう=1948年神戸市生まれ。神戸市外国語大名誉教授。著書に『権威と服従』など。

 岩波新書 840円

読売新聞
2018年4月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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