<東北の本棚>コルセット町や人変革

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テーラー伊三郎 = Taylor Isaburo

『テーラー伊三郎 = Taylor Isaburo』

著者
川瀬, 七緒
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784041056172
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>コルセット町や人変革

[レビュアー] 河北新報

 福島県のシャッター街で営む古びた紳士服の仕立屋を舞台に繰り広げるエンタメ小説だ。女性下着のコルセットを突然作り、ショーウインドーに飾った偏屈な老店主の伊三郎。卑屈な男子高生と「コルセット革命」なる計画に乗り出す。少年の成長と町の変化がリンクしたストーリー展開は躍動感あふれる。
 少年は17歳にして人生を諦めていた。閉塞(へいそく)した田舎町でポルノ漫画家の母と貧しい団地暮らし。父は女と蒸発した。ところが伊三郎の美しいコルセットを目撃して心が動く。「下着で世の中を粉砕」と、コルセット作りによる店舗再生に向けて立ち上がる82歳の姿に引かれる。
 コルセットの受注を始めたところ、「城下町の商店街にそぐわない」と商工会から横やりが入る。子どもらの登下校時にコルセットを飾らないことを伊三郎は約束するも製作は続ける。
 「自分の人生は、自分以外のだれにもゆだねるな」と伊三郎に叱咤(しった)された少年は店舗改装のプロデュースを任せられ、意見をはっきり言うように。そしてわだかまっていたコルセット作りの動機をただすのだった。伊三郎が亡き妻をしのんで答える場面は心を打つ。
 奇抜なファッションの女子高生、町に埋もれていたパソコンや刺しゅうなどの技術や知識を持つ老人らが協力。コルセット革命が大詰めを迎える中、少年は児童相談所に保護されてしまう。革命の行方はいかに…。
 少年の視点でつづられる物語は、デザイナーだった著者ならではの服飾の知識や歴史が盛り込まれる。老人や若者の生きがい、町の活性化、貧困などタイムリーな社会テーマも加わり、読み応えある内容になっている。
 著者は1970年白河市生まれ。文化服装学院卒。2011年に「よろずのことに気をつけよ」で江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。著書に「法医昆虫学捜査官」シリーズなど。
 KADOKAWA(0570)002301=1620円。

河北新報
2018年4月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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