「愛国」という名の亡国論 窪田順生 著

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「愛国」という名の亡国論

『「愛国」という名の亡国論』

著者
窪田順生 [著]
出版社
さくら舎
ISBN
9784865811230
発売日
2017/11/10
価格
1,650円(税込)

「愛国」という名の亡国論 窪田順生 著

[レビュアー] 大倉幸宏(ライター)

◆日本礼賛報道の誤り分析

 「日本人選手がオリンピックで金メダルを獲得」「日本人科学者がノーベル賞を受賞」。テレビや新聞でそうした報道がなされると、多くの日本人が歓喜する。ここでは、その人物のことを知っているか、あるいはその競技や研究分野に精通しているかは必ずしも関係ない。ただ「日本人」という同じ集団に属する人物が、世界的な評価を得たという事実だけが問われる。

 近年、そうした日本人の感情をさらに鼓舞するようなテレビ番組が増えている。しかし、日本が海外で高く評価されていることを取り上げた「日本礼賛番組」の中には、事実をゆがめて伝えているものが少なくない。著者はそうした風潮に警鐘を鳴らす。操作された情報に大衆が扇動されてしまうのは非常に恐ろしいことであると。

 本書では、「世界一」というキーワードをもとに、いかにマスコミが情報を捏造(ねつぞう)し、自画自賛しているかが明らかにされる。日本がある分野で世界一だと示した番組・報道に対し、著者がそこに潜む誤りを根拠を示しながら切り込んでいくさまは小気味良い。

 日本経済の衰退を憂うムードが広がる中、「実は日本はこんなにすごい」といった言葉に自尊心をくすぐられる人は少なくないだろう。「日本礼賛番組」は、時代の風潮に迎合したコンテンツであるともいえる。ただ、マスコミが日本を礼賛する情報を広める傾向は最近になって現れたものではない。そのルーツは戦前にあると著者は言う。特に朝日新聞の影響が今日まで色濃く残っていると論じる。

 著者は元朝日新聞記者。記述に、同紙に対する自身の思いがやや強く反映されている点は否めない。それでも、その根底にある日本のマスコミが共通して抱える病理に対しての指摘は傾聴に値する。メディアリテラシーの大切さを訴える書物は多々あるが、本書に記された具体例や分析を踏まえた上でその重要性を説かれれば、説得力は一層増すだろう。

(さくら舎・1620円)

<くぼた・まさき> 1974年生まれ。ノンフィクションライター。著書『14階段』など。

◆もう1冊

 大倉幸宏著『「昔はよかった」と言うけれど』(新評論)。戦前の日本には高い道徳心があったとする言説の誤りを指摘する労作。

中日新聞 東京新聞
2018年4月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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