ビジネスで使う「数字」はたったの2種類? 数字と仲よくすれば仕事の質が変わる
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
数字に対して苦手意識を持っている方は、決して少なくないでしょう。社会に出たばかりだとしたらなおさら、不安感は大きくなっていくものかもしれません。でも『入社1年目からの数字の使い方』(深沢真太郎著、日本実業出版社)の著者は、学生時代に算数や数学が得意だったかどうかは、ほとんど関係ないと断言しています。
仕事をうまく進めるためには、ちょっとだけ数字が使えればよいのです。そしてそれは、コツさえ知っていれば誰にでもできることです。 しかし、そのコツというものを実は先輩たちもよく知らない場合が多いため、意外と教えてもらう機会がないというのが実情でしょう。(「はじめに」より)
著者は「数字に強い」ビジネスパーソンを育成するプロフェッショナル。社員研修や書籍を通じて「数字の使い方」を伝え、企業の人材教育をバックアップしているのです。
しかし実際のところ、「もうちょっと数字をうまく使えれば…」と感じるビジネスパーソンも少なくないのだとか。でも、その“もうちょっと”が身につけば、必ず成果を出すことができ、仕事も楽しくなるはずだというのです。そこで本書では、その「もうちょっと」を自分のものにできるように、ビジネスシーンでの数字の使い方を明かしているわけです。
第1章「社会人が毎日の仕事で期待されている数字の基本」から、いくつかのポイントをピックアップしてみましょう。
仕事で使う数字はたった2種類しかない
著者によれば、ビジネスパーソンが仕事で使う数字はたった2種類しかないのだそうです。1つは、「実数」と呼ばれるもので、もう1つは2つの実数を比較することによってつくられる「割合(%)」。
実数という言葉は聴きなれないかもしれませんが、たとえば「100円」「3人」「90分」といったようなもの。いってみれば、実態そのものを表現する「リアルな数字」だということです。
これに対する割合(%)とは、下のような数字。
● 「割合(%)」で表現するもの
前年比…前年に比べてどのくらいか
[たとえば] 前年比「110%と」は、前年に比べて「ちょっと」増えたことを意味する
男性比率…全体における男性の多さはどのくらいか
[たとえば] 男性比率「55%」とは、全体に比べて男性は「半分強」いることを意味する
顧客満足度…顧客のうちどのくらいが満足と評価しているか
[たとえば] 顧客満足度「95%」とは、「ほとんど」の顧客が満足していることを意味する
(23ページより)
「よい・悪い」「すごい・すごくない」といった“質”を表現する際に、「割合(%)」を使うということです。ビジネスにおいては、「ちょっと」「半分強」「ほとんど」というような曖昧な表現でのコミュニケーションが許されない場合があるもの。そんなときには、「割合」という数字がとても重要な役割を担うというわけです。
実数:ヒト、モノ、カネといったものの「量」を表現する数字 割合:その実数の「よい・悪い」を表現する数字 (24ページより)
実際、きのうどこかで目にした数字や口から発した数字を思い出してみると、おそらくこのどちらかにあてはまるそうです。(22ページより)
勘違いしている人、多数!「前年比」と「前年増加率」
ここで著者は、割合(%)という数字の“そもそも”を解説しています。
割合(%)=比べる数字÷もとの数字×100 (25ページより)
こうして見てみると、割合(%)という数字が「比べる数字」「もとの数字」という2つの言葉から成り立っていることがわかります。いいかえれば、割合(%)という数字の裏には必ず2つの実数があるということ。
なお、割合(%)という数字を使って計算するのは「割合」「比べる数字」「もとの数字」を求めるとき。以下が、その簡単な例です。
割合=比べる数字÷もとの数字×100
比べる数字=もとの数字×割合÷100
もとの数字=比べる数字÷割合×100
<割合>を計算するとき
前年度の売上高が300万年、今年度の売上高が330万円ならば前年比は…
→330÷300×100=110(÷)
<比べる数字>を計算するとき
全従業員800人の企業において男性比率が55%だとすると、男性従業員の数は…
→800×55÷100=440(人)
<もとの数字>を計算するとき
あるリサーチで、満足と回答した顧客が380人おり、顧客満足度95%という結果が出た。
このとき全回答数は…
→380÷95×100=400(人)
若手ビジネスパーソンは、「比べる数字」と「もとの数字」を逆にしてしまいがち。そのため、慣れるまでは次のように理解するといいそうです。
「□に対して△は○%である」
□:もとの数字 △:比べる数字 ○:割合 (26ページより)
上記の図の「前年比」という数字は、「前年度の数字に対して、今年度の数字は増えたのか減ったのか」を表現するもの。すなわち「300万円(前年度)に対して330万円(今年度)は110%」という構造になっているわけです。このとき、前年度と今年度を逆にしないように気をつけることが大切。
また著者は、この「300万円が330万円に増えた」という事実をうっかり「前年増加率110%」と表現してしまうビジネスパーソンを何度か見たことがあるといいます。
しかし「増加率」とは、「増加した分がもとの数字の何%か」を表現する数字。増加したのは30万円であり、これは300万円のちょうど10%に当たる数字。よって「前年増加率10%」という表現でなければいけないということです。
なお「前年増加率110%」とは、前年度300万円だったものが今年度630万円になったことを指すもの(330万円<=300×110÷100>の増加ということ)。
ビジネスシーンでは、頻繁に割合(%)という数字が登場します。そしてその数字から、頭のなかで(あるいは電卓を使って)すぐに計算しなければならないシチュエーションがあるもの。そのため、割合(%)のポイントを必ずおさえておこうと著者は提案しています。(25ページより)
「%」だけでは正確な情報にならない
割合(%)という数字はクセ者だといいます。なぜならその裏には、必ず2つの実数があるから。
「割合(%)」だけを見る=「2つの実数」を見ない (29ページより)
こうした現実があるわけです。
たとえば、「顧客満足度80%」という数字があったとします。しかし、これだけで「すごいね」と解釈するのは危険。なぜなら、その裏にある2つの実数の存在を無視した状態での解釈だから。
次のAとBのケースを考えてみましょう。
A:ごく一般的な顧客をランダムに5名選んで調査した結果、4名が満足と答えた
B:超優良顧客1000人に調査した結果、800人が満足と答えた
(30ページより)
どちらも顧客満足度は80%ですが、Aはたった5人しか調査していない結果であるため、この80%が評価に値する数字であるかには疑問が残ります。またBは超優良顧客なので、逆に20%が満足と答えていないという事実のほうが重要だともいえるはず。このように、「顧客満足度80%」という数字だけで「すごいね」とは評価できないわけです」。
割合(%)という数字を使って「よい・悪い」「すごい・すごくない」といった“質”を読み解くときには、必ず「もとの数字」がなんなのかを把握することが重要なのだといいます。そして、このようなケースに遭遇したときにするべき指摘は、次のようなもの。
「その割合(%)の分母(もとの数字)はなんですか? (31ページより)
割合(%)を分母表記したときに、分母の数字を確認する。こうした視点を持っておくだけで、落とし穴にはまらずにすむというのです。(29ページより)
著者は本書のことを、「すべてのビジネスパーソンと数字を仲よくさせる本」だと記しています。たしかに数字と「仲よくなる」と考えることができれば、難しく考えてしまいがちな数字ともうまくつきあっていけそうです。
Photo: 印南敦史