南沢奈央「恋に落ちる人妻役をやってみたい」 話題の恋愛小説家に直訴

対談・鼎談

32
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

1ミリの後悔もない、はずがない

『1ミリの後悔もない、はずがない』

著者
一木 けい [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103514411
発売日
2018/01/31
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

本を読むと甦る、恋の思い出、過去の記憶 南沢奈央さん×一木けいさん対談

[文] 一木けい(作家)/南沢奈央(女優)


左から一木けいさん、南沢奈央さん

椎名林檎さんに絶賛された一木けいさんのデビュー作『1ミリの後悔もない、はずがない』を、南沢奈央さんが連載中のエッセイ「読書日記」で「思い出スイッチ」として取り上げたのをきっかけにしたお二人の顔合わせは、好きな小説のこと、初恋の思い出、演じたい役柄などのお話で盛り上がりました。

恋をしながら読みました

一木 南沢さんが連載されている「読書日記」で私のデビュー作『1ミリの後悔もない、はずがない』を取り上げて下さり、ありがとうございました。

南沢 こちらこそ素敵な小説を読ませていただきました。作家の方ご本人を前にお話できる機会はなかなかないので緊張します。でも、読み出してすぐ、ファンになりました。

一木 うれしい! ありがとうございます。

南沢 さわやかさと色っぽさみたいなものが感じられて、作風は今までに出会ったことがないタイプでしたし、恋愛小説とも家族小説とも簡単にはジャンル分けできないですよね。そして、かなり胸をドキドキさせながら読みました。

一木 ありがとうございます。

南沢 冒頭作の「西国疾走少女」は、今は結婚して幸せに暮らしている女性が、ふとしたことで昔の恋を思い出しますが、私はどういう時に過去を思い出すかな、って……。

一木 それを「思い出スイッチ」という素敵な言葉にして下さって。小説では主人公の女性が夕食のためにイカをさばいている時にそのスイッチが入ったんですけど、実際、私がイカをさばいている時、イカの中にもう一匹魚が丸ごと入っていたんですよ。

南沢 そんなことが本当にあるんですね! 彼女が中学生の時の恋を思い出して物語が始まりますが、回想だけで終わらないで、現実にちゃんと戻るところがよかったです。過去は過去で、だから今がある、という気持ちになれるのがよくわかります。

一木 そう、過去は過去なんですよね。本が出てすぐに『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻さんと対談させていただいたのですが、男性は現在と過去が地続きで、別れた彼女のことを今でも懐かしく思い出すという話になって、私と全然違う、と思いました。

南沢 過去には想像もしていなかった現在がある、過去を思い出してセンチメンタルになりつつも、それがあるから今がある、というところが前向きな気持ちになれて良かったです。

一木 「読書日記」で「むかしのことを思い出すようになるのは、別れや失うということを経験してからだ」と書かれていましたよね。私も本当にそう思います。

喉仏フェチ、腕フェチ

南沢 人と人が惹かれあう時って、どんなことからかな、と考えちゃいました。この小説では、主人公の由井は桐原君の色気に惹かれていて、出っ張っていてなまめかしく動く喉仏、とかかなり具体的に描かれていますね。私は、学生時代はパーツよりも、運動ができるとか頭が良いとか、そういうことで異性に惹かれてきたんですけれど、全然違う方向から描かれていたのが、面白いなあ、そうやって見たことなかったなあ、って。それで自分は何フェチなんだろうと……。

一木 私は喉仏フェチだと思います。顔が骨っぽい感じが好きなんです。

南沢 やっぱりそうなんですね。私は腕かなぁ。一木さんは腕はどうですか?

一木 腕は筋が出ていたらうっとりしてしまいます。血管が浮いていると尚いい。桐原には私のフェティシズムを入れ込んだんです。

南沢 私は喉仏を意識したことはなかったんですけれど、これを読んでいたらあまりに描写が素晴らしくてドキドキしちゃって、実際に見たら惹かれちゃうんだろうな、って。私も恋をしながら読みました。 

一木 それはやっぱり桐原でしょうか。他の登場人物で気になる人がいらっしゃったら、教えてください。

南沢 実は高山が結構好きでした。

一木 高山は中学生と、大学生と、30代と出てきますが、どの時代が好きですか。

南沢 言いにくいけれど、実は30代の高山がちょっと魅力的に感じられて。中学の時はすごくモテていいたのに、30代になったら引きこもりみたいな生活をしていて、でも「目尻にスターの名残があった」という描写が気に入っちゃいました。

一木 ちょっとマニアックですね(笑)。過去にモテてた人は、ヨレヨレになっててもまだモテるのかよ、ってイラッとした男性読者もいらしたみたいです。


南沢奈央さん

いつか小説も書きたい

一木 本好きの人は、読書によってここではないどこかへ連れて行ってほしい、という欲があると思いますけど、南沢さんの「読書日記」の文章は気持ちよくて、私こそいろんなことを思い出して、ここではないどこかへ連れて行っていただきました。中島京子さんの『樽とタタン』について書かれた回を読んで、自分の卒業式のことを思い出したり、毎回、本についてだけでなく、ご自身のことを織り交ぜたエピソードがあって読み応えがあり、本当に読んでいて心地良いし、好きになっちゃいます。「かにみそ、いただきます」の回を読んで、倉狩聡さんの『かにみそ』を買っちゃいました。

南沢 そんなに褒めていただいて……。

一木 本を読むのも書くのもお好きなんですね。

南沢 子どもの頃から書くのは好きで、小学生の夏休みの自由研究で小説っぽいことを書いて持っていったり、本を読むのもずっと好きで良い文章とたくさん出会ってきました。

一木 それは宝ですよね。何がきっかけで好きになりましたか。

南沢 小学校の時は親から勧められた児童文学を読んでいたんです。『ズッコケ三人組』のシリーズとか、推理っぽいものとか。

一木 私も『ズッコケ三人組』読んでました!ご自分で選ぶようになったのは?

南沢 中学生位からで、友達に東野圭吾さんの『秘密』を勧められてから自分でも探して読むようになって。一木さんこそ、小さい頃から書いていたんですか。

一木 書いてないです。小説家になろうとも思っていなかった。

南沢 どうして書くようになられたのですか。

一木 きっかけはふたつあって、ひとつは大学時代ゼミの教授に書くことを勧められたこと。もうひとつは、同時期にとても魅力的な人物に出会って、その人を「小説」という形で描いてみたいと思ったことです。それでも勿論すぐには書けなくて、ずいぶん間があきました。まともに書くようになったのはここ数年です。

南沢 そうなんですね。

一木 南沢さんはエッセイ以外は書かれないんですか。

南沢 いつか小説も書けたらと思うんですが、まだまだ引き出しが足りなくて。エッセイで自分のことを書いているので、全然違うことが書けたら、と思うんです。どうやって書いたらいいんですか。

一木 自分のことを書かなくても、小説を書くのは自分をえぐっているようなことなので、おのずと自分が出て来てしまうと思います。

南沢 それは、まだむずかしいかもしれないです。

一木 そうですよね。お仕事の関係もあるでしょうし……。けれど、「書く」と思い続けていたら、きっといつか南沢さんらしい小説にたどり着くと思います。

南沢 今日、一木さんに励まされてよかった。

春におすすめの小説は

一木 いつも本はどうやって選んでいるんですか。

南沢 一冊読むとそこから繋がったり、人に聞いたり、いろいろですけれど、季節になると読みたくなる本とかありますよね。

一木 じゃあ、春になると読みたくなる本はありますか?

南沢 窪美澄さんの『やめるときも、すこやかなるときも』です。カバーも桜ですし、お話もぴったりだと思います。

一木 同じ! 南沢さんがこの本のことを連載で、「“きっと今が読むべきタイミングなのかもしれない”と勝手に運命を感じ」たと書かれていて、私も同じようなことをこの本で思ったんです。実は買ってからずっとお楽しみにとってあって最近読了したのですが、『1ミリの後悔もない、はずがない』と設定がちょっと似ているところがあって、自分の本を出す前に読んでなくてよかった、と思いました。

南沢 他の人の本を読んでいると、やっぱり小説の設定とかが似ていないか気になりますか。

一木 書いている時は、ただひたすら集中して何も考えず書いているだけなのですが、見直している時に、気づいて変えてしまうことはあるかもしれない。ですからもし先に『やめるときも、すこやかなるときも』を読んでいたら、『1ミリの後悔もない、はずがない』はこの形とは少し違ったかも……。

南沢 演出家や脚本家の中には、影響を受けたり、作ろうとしているものと似ている作品に出会うと書けなくなるから、他の舞台や作品をほとんど観に行かないって言う方もいます。でも観て良い影響を受ける可能性もありますよね。

一木 私は好きな作家の小説は、読みたいから我慢できないです。でも、万一どこか似てしまっても自分の味というか、そういうものが出せたらいいなと思います。

「ダークサイドは仕入れだから」

南沢 執筆は朝方ですか?

一木 はい、そうです。朝早く起きて、まず好きな本をすこし読みます。朝の一冊は小説ではないことも多いですが、読書をしてから原稿に向かうと、良い感じに書けるような気がします。

南沢 その余裕が大事ですよね。

一木 そうなんです。たぶん余裕が大事なんですよね。なかなかむずかしいですけれど。

南沢 私はなかなか朝は余裕がなくて。その日に着る服も、読む本も、前日の夜に用意しておくんです。

一木 えらーい!

南沢 優柔不断なので、当日だと決める時間がなくて。原稿もどうしても夜になっちゃって、締切ギリギリでちょっとストレスかかった方が書けるってこと、ないですか? 運動やってた頃も、実は疲れた時にいい記録が出ていたんです。

一木 今も運動されているんですよね?

南沢 ボルダリングをやっています、頭と全身を使うし、大人だからこそハマるなあ、と本当にオススメです。考えるのが好きな人は向いていると思います。

一木 頭と全身を使うっていいですね! 南沢さんは、ちゃんと読書と運動でバランスを取っていらっしゃるんですね。

南沢 ストレス解消に良いですよ。一木さんはストレスが溜まったらどうするんですか? 

一木 ストレスは時が過ぎるのを待って、あとでそれを別の形で小説にしているんだと思います。前に編集者の方に「いま非常に落ち込んで暗い気持ちです」と話したら、「作家にとってダークサイドは仕入れだから」って言われて。他人事だと思って……(笑)でも、確かにそういう面もあるなあ、と思って時々仕入れに行ってます。

南沢 うーん、それは大変そう。

一木 南沢さんは、悲しいとき、苦しいとき、どういう本を読みたいですか? 明るいことが書いてある本を選びますか?

南沢 私は明るい世界へ連れていってくれる本を選びたいです。動物の写真集とか。去年、舞台やっている時にとにかく考えすぎちゃって困って、読書日記でも『モモはどこ?』という犬の写真集を紹介したんです。

一木 可愛い動物に癒されて、さらに「探す」というアクションがつくと、そちらに集中できていいですよね。私は、つらい時はつらいものにどっぷり嵌まってしまいます。好きな作家の暗い小説を読み返したり、巻数のあるマンガをずーっと読んだり。

南沢 コミックのオススメはありますか?

一木 鳥飼茜さんの『先生の白い嘘』はおすすめです。とっても魅力的な男子高校生が出てきます。8巻まであるからひと晩集中して読むのに良いかも。あと、新田晶さんという漫画家さんが大好きで、『あそびあい』と『恋のツキ』が超オススメです。

南沢 教えて下さってありがとうございます。一気に読みたいので、今まであまり長いものを読んで来なかったんですけれど、挑戦してみます。私は益田ミリさんとか、今日マチ子さんとかが好きでよく読んでいます。


一木けいさん

好きな人から勧められた本は?

一木 実は気になっていたことがあるんです。「読書日記」で島本理生さんの『よだかの片思い』を取り上げた回で、「わたしが読書好きになったのも、好きな人からある本を勧められたからだった」と書かれていたのですが、その本が何か、伺っても大丈夫ですか?

南沢 それこそ実は、東野圭吾さんの『秘密』なんです。中学生の時に憧れていた先輩に勧めてもらって。

一木 えー、そうだったんですか。その恋はどうなりましたか?

南沢 今では普通に気の合う友達になっているんですよ(笑)。その時は会話のきっかけになって、次のおすすめの本を聞いたりしました。

一木 自分から先輩に勧めた本はありますか?

南沢 うーん、たぶん、私が落語を好きになったきっかけの『しゃべれどもしゃべれども』かもしれないです。

一木 実は、私も今日、南沢さんにお勧めしたい本を選んで持って来ました。永井均さんの『マンガは哲学する』という本です。

南沢 わー、うれしいです。

一木 マンガの名作をいろいろ取り上げて、哲学的な問題を読み解いていく内容なんですが、1つのマンガに実はこういう視点もあると、異世界に連れて行ってくれるような本です。頭の中で、想像をはるかに超えた旅ができます。実は大学生のとき教育実習で倫理を教える機会があったのですが、その時にこの本を教材にしたら、可愛い高校生たちが興味を深そうに授業を聞いてくれました。

南沢 特にどの章がオススメですか?

一木 ぜんぶ面白いですけど、楳図かずおさんの『洗礼』は読まれたことありますか?

南沢 女優が主人公ですよね、、怖かったです。

一木 ラストもね……怖すぎますよね。『マンガは哲学する』を読んだあとで『洗礼』を読むと、また違った世界が見えてくるんです。「存在する」ってなんだろう。「なかったこと」を証明するなんて可能なのだろうか。いくつもの疑問を抱きつつ改めて読むと、混乱します。でも、その混乱がまた気持ちよくて。

恋に落ちる人妻役をやってみたい

一木 南沢さんは、ご自分が演じたいという視点だけでなく、映像化したら面白そうという観点から本を選ばれることもあるんですよね。

南沢 演じたいと思うのは、作品自体がすごく好きで、その中で自分ができる役があるかなと思える作品が多いんですけれど。

一木 この『1ミリの後悔もない、はずがない』はどうでしょうか。

南沢 うーん、「穴底の部屋」の泉さんの役にチャレンジしてみたいです。

一木 南沢さんの演じる、恋に落ちる人妻役、観たいです!

南沢 この小説は言葉と表現で成立しているし、性的描写もあるから、この色っぽさとさわやかさを映像にしてしまうと、生々しくなっちゃう可能性もあるし、むずかしそうですけれど、挑んでみたい気もします。映像化のお話が来たらどうしますか?

一木 そんなありがたいお話をいただいたら、もうお任せして楽しみに出来上がりを待ちたいと思います。

南沢 確かに映画と小説は全然違う作り方ですよね。小説家って孤独じゃないですか?

一木 すごく孤独ですよ(笑)。

南沢 そうですよね、一人だからこそ、自由にやれることもあると思うけれど、強い精神力がないとやり遂げられないだろうなと思います。私の仕事は一人では何もできない。セリフは自分で覚えるしかないですけれど、その他のことは周りの人の力があって初めて作り上げられるので。

一木 初めての本を出して初めて知ったんですけど、本が出る時には編集の方だけでなく、営業や宣伝や書店さんなどたくさんの人が関わってくれているのがわかったんです。一人で書いてきたけれど、本になるとたくさんの人と関われて、本当にありがたいと思っています。

南沢 あちこちの本屋さんですごく積まれていますものね。これをきっかけにまた読んで下さる人がいると良いなと思います。

一木 ありがとうございます!

Book Bang編集部
2018年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加