デビュー作で日経小説大賞!「二階崩れの変」描く

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大友二階崩れ

『大友二階崩れ』

著者
赤神諒 [著]
出版社
日本経済新聞出版社
ISBN
9784532171469
発売日
2018/02/21
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

豊後の御家騒動を重厚に描く「日経小説大賞」受賞作

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 九州は豊後の戦国大名・大友氏に起こった御家騒動「二階崩れの変」を、極めて魅力的に描いた第九回日経小説大賞受賞作である。

 大友家の当主・義鑑(よしあき)は、愛妾の子を溺愛し、長子・義鎮(よししげ)を廃嫡せんとしたため、御家は二つに割れんばかりの危機に見舞われることに―。

 義鑑に諫言をした斎藤長実(ながざね)は、囚われの身となり、その盟友であり、本書の主人公の一人である吉弘(よしひろ)左近(さこん)鑑理(あきただ)は、義鑑の命により、長実の介錯をすることになる。

 私たちは、義鎮が後の宗麟(そうりん)であることを知っている。ということは、御家騒動の帰趨も了解しているわけだが、この盟友同士の血涙の場は正に粛然として男子の鉄腸を引きしめる感がある。

 鑑理は友を斬った後、主君を偽り、義鎮を匿うつもりであったが、突如、義鑑が横死。状況が百八十度、転換したため、先主の忠臣であった者が、先主に殺されかけた新しい主君=義鎮へ忠義を示さねばならぬ、という苦境に立たされることになる。

 鑑理は辛うじて、軍師・世戸口紹兵衛(せとぐちしょうべえ)とともに苦境を乗り越える決意をする―と、ここまでが第一章である。

 御家騒動のみを描くならば、この段で終わってしまうが、作者は、その前後を活写して、本書の面白さを倍化させていく。

 第二章は、本書のもう一人の主人公、鑑理の弟、吉弘右近(うこん)鑑広(あきひろ)のために割かれているといっていい。

 変から遡る二十年前。鑑広は、初陣の際、己が討った敵将の娘・楓(かえで)に恋をし、自分は彼女に「天まで届く倖せ」を捧げると約し、とうとう楓は恩讐を越えて鑑広の妻となる。

 どこまでも御家への〈義〉を貫こうとする兄と、変わることのない〈愛〉に生きた弟と―が、変の後、戦国の世はどこまでも残酷にこの兄弟へ牙をむく。

 とても新人のデビュー作とは思えぬ、重厚な歴史小説の誕生をよろこびたい。

新潮社 週刊新潮
2018年4月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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