現実のニーズに即さぬTOEIC
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
英語力の検定試験であるTOEICの得点は、おもに企業で参考にされている。TOEFLや英検と比べ、ビジネス寄りのイメージだ。しかし、TOEIC高得点の人が英語で仕事ができるとは限らない。なんのための検定だろうか。
猪浦道夫『TOEIC亡国論』はタイトルこそ刺激的だが、現実的な外国語学習論である。TOEICはいくら高得点でも英語が話せるわけではなく、読み書きの能力も正確には反映されない試験だ(その点を考慮して補完的な試験も作られたが)。「得点技術」を訓練すれば成果の出る試験なので、その点数を真に受けたら危険。非常に明快な分析・評価だ。
現実のニーズに即していない試験が、まるで「それしかないモノサシ」のように使われている。それは、日本人が思う「英語ができる」の意味が非常に漠然としているからだ。著者は、外国語を教え、学ぶことについての豊富な具体例や、TOEIC受験者の感想などを示し、自分に必要な英語力の正体を見極めるようにすすめている。
教育のさまざまな分野に科学の最新知見が応用される現代において、語学学習だけが原始的な状態にとりのこされている。そういう危機感がこの本の底にある。会話ではなく「読み書き」を基礎にすることの正当性、外国語の力は結局その人の「日本語力」を超えられないこと、若いときとは異なる学習方法のすすめなど、中高年にとって心強い本である。