映画的表現とは何か
[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)
【前回の文庫双六】股旅ものの決定版 御存知『木枯し紋次郎』――川本三郎
https://www.bookbang.jp/review/article/551150
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なるほど、言われてみれば木枯し紋次郎には西部劇のガンマンの面影がある。小学校高学年の頃テレビで見た世代だが、どこからともなくやってきて圧倒的な強さを見せ、何事もなかったように去っていくクールさに子供ながらシビレた。
飯に汁だけでなくメザシや漬物までぶちこんでかきこむ「紋次郎食い」を真似するのがクラスで流行ったのも懐かしい。
そういえば紋次郎に扮した三木のり平のアニメキャラが登場するCMもあった。「ニヒルな男もお昼になればおなかの虫がぐうと鳴く」。桃屋の江戸むらさきである。知らない者のいない国民的ヒーローだったからこそ成立したCMだろう。
テレビドラマの印象は鮮烈だが、実をいうと原作を読んだことはなかった。今回初めて読み、紋次郎のバックグラウンドがよくわかった。彼がまさに「時代の子」であったことも。同時に、原作の雰囲気をドラマがよくとらえて、スタイリッシュに映像化していたことに改めてうならされた。最初の3話分の演出はあの市川崑である。
忘れられないのは上條恒彦が歌った主題歌「だれかが風の中で」で、〈ど~こかで~だ~れかが~〉というフレーズが、原作を読んでいる間じゅう頭の中で鳴っていた。今思えばあの歌にも西部劇の雰囲気がある。作詞は誰かと思って調べたら、脚本家の和田夏十。市川崑夫人である。
夫とともに送り出した名作は多いが、中でも評価が高いのが三島由紀夫の『金閣寺』をもとにした「炎上」(長谷部慶治との共同脚本)。個人的にも市川崑作品でもっとも好きな映画だ。
金閣寺住職をはじめ京都の仏教関係者が映画化に反対、タイトルを変えて寺の名前も架空のものにしたことは有名。脚本づくりのため三島由紀夫自身が創作ノートを提供したというが、かなり大胆な脚色が行われている。原作と脚本の関係や、映画的表現とは何かについて思いめぐらすのに恰好の作品かもしれない。