『初代「君が代」』 小田豊二著

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初代「君が代」

『初代「君が代」』

著者
小田 豊二 [著]
出版社
白水社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784560096277
発売日
2018/03/21
価格
2,592円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『初代「君が代」』 小田豊二著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

 今年は「明治150年」である。が、明治20年くらいまで事実上の「幕末」が続いていた、と見なす説がある。無理もない。明治初期の日本人は江戸時代の生まれだ。西洋式の学校教育とも、国際的常識とも無縁だった。本書は、そんな明治初期の国づくりの苦労を描くノンフィクション・ノベルである。

 明治2年、英国のビクトリア女王の次男エジンバラ公が来日することになった。外交儀礼上、日英両国の国歌を吹奏する必要がある。来日直前、英国軍楽隊の音楽家フェントンは、薩摩出身の若い通詞・原田宗助に言った。

 「貴国の国歌を私はうかつにも知らなかった。申し訳ない。すぐにわが軍楽隊が練習をするから、大至急、教えてほしい」

 宗助は困惑した。彼も含め、日本人は国歌という概念を知らなかった。急いで新政府の重鎮・川村純義に報告すると「歌だと! そげなこつをいちいち、おいに問い合わせにくる必要はなか!」と怒られ、接待掛が相談のうえ処理せよ、と丸投げされた。政府すら、国歌の意味や重要性を知らなかった。結局、宗助は薩摩琵琶の曲『蓬莱山(ほうらいさん)』の一節「君が代は千代に八千代に…」を歌ってフェントンに聞かせて、ごまかした。フェントンは歌詞だけを生かし、新曲を書いた。これが初代の日本国歌である。

 今の「君が代」は2代目で、ほかにもいろいろな「君が代」が明治に作られていた。これは目新しい事実ではない。團伊玖磨(だんいくま)の著書『私の日本音楽史』の「五つの『君が代』」の章にも書いてある。本書の特長は、ペリー来航までさかのぼり、著者自身による探求の旅とからめ、手探りの近代化の舞台裏を小説風に描き出している点である。

 フェントンに指導を仰いだ日本初の西洋式楽隊「サツマバンド」の演奏が西洋人に絶賛されたのは、わずか1年後の明治3年だった。今の私たちが明治の先人から学べることは多い。

 ◇おだ・とよじ=1945年生まれ。劇団「こまつ座」の『the座』元編集長。著書に『鉱山のビッグバンド』など。

 白水社 2400円

読売新聞
2018年4月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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