『リーマン・ショック 元財務官の回想録』 篠原尚之著

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リーマン・ショック

『リーマン・ショック』

著者
篠原尚之 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784620325019
発売日
2018/02/21
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『リーマン・ショック 元財務官の回想録』 篠原尚之著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

 著者は、2007年から2年間財務官を務め、2010~15年は国際通貨基金(IMF)の副専務理事を務めた。財務官は為替政策に携わり、相手国と意思を疎通し、急激な相場変動に対する対応の是非を含めて協議を行う。

 著者の就任当時、米国は長期の景気拡大が続いていた。しかし、ひと月後、市場が全く警戒していない中でパリバ・ショックが起きる。サブプライム・ローンが抱えるリスクが表面化し、翌年3月にはベア・スターンズ・ショックが、9月にリーマン・ショックが起きる。そこからの動きは周知の通りだ。

 銀行が自己資本比率を維持するため、金融市場にお金が回らなくなり流動性が低下する。実体経済の悪化に強い懸念を覚えた各国は金融政策を発動し、積極的な財政政策で協調を進めていった。著者はその只中(ただなか)で仕事をしたのだ。

 手記には、パリバ・ショックのとき、これから訪れる危機の深刻さに皆が気付いていなかったことが記されている。当時は、欧米の(もちろん日本もだが)金融機関がサブプライムでどれほどの損害を被っているか定かではなかったのである。ベア・スターンズ・ショックのときも、米財務当局が危機感を共有していなかったことが本書からは窺(うかが)える。著者は繰り返し、早期に公的資本注入を検討すべきと米国側に伝えたが、それが遅れた背景も描かれている。

 アジア通貨危機と比較すると、リーマン・ショックに端を発する危機では、日本から多額の資金提供をしたIMFが、中小国向けに比較的積極的な役割を担うことができた。米国経済のような粘り強い体力を持たず、強い基軸通貨を持たない欧州において、IMFが過去の経験に学んで対応した意義は大きい。

 またいずれ、バブル崩壊は訪れる。その際に経済を大不況に陥らせないために、いかに対策するか。明快な解はまだ見つかっていないとしつつも、本書は重要な学びを提供してくれる。

 ◇しのはら・なおゆき=1953年生まれ。財務省財務官や国際通貨基金(IMF)副専務理事を経て東京大教授。

 毎日新聞出版 2000円

読売新聞
2018年4月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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