アイデア出しは「数独」と同じ? お笑いトリオ・グランジの五明さんがクリエイターに聞いた、広告制作のコツ

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全米は、泣かない。

『全米は、泣かない。』

著者
五明拓弥 [著]
出版社
あさ出版
ISBN
9784866670218
発売日
2018/03/17
価格
1,650円(税込)

アイデア出しは「数独」と同じ? お笑いトリオ・グランジの五明さんがクリエイターに聞いた、広告制作のコツ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

僕の職業は芸人。グランジというトリオを組んでいて、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属している。芸人の僕がなぜ、広告業界の方々と対談をして本を出版することになったのか。その経緯を簡単に説明しようと思う。 2015年、電通の澤本嘉光さんに「ラジオCMをつくってみないか?」と誘っていただき、初めてCMをつくった。そのラジオCMをTCC新人賞に応募した。 (中略)TCC新人賞に選ばれれば、東京コピーライターズクラブへの入会資格が与えられる。 なんと、僕が初めてつくったラジオCMが2016年TCC新人賞に選ばれてしまったのだ。(「はじめに」より)

全米は、泣かない。』(五明拓弥著、あさ出版)の著者は、広告制作に携わるようになったきっかけについて、このように説明しています。そしてTCC新人賞を受賞したことで、「どうにか今後、CMをつくる仕事を増やしていけないだろうか…」と考えるようになったのだそうです。理由は、「CMのつくり方がお笑いのネタのつくり方に似ていたから」

コントのネタづくりは、まず設定を考えて、その設定で面白くなる登場人物を考え、ストーリーをつくる。 CMはクライアントから指示された設定やルールの中で、登場人物を考えて、ストーリーをつくる(たぶん)。大まかなつくり方にそんなに差がないように感じた。芸人人生で培ってきた脳みその使い方を流用できるかもしれないと思ったのだ。何よりつくってみて楽しかったし、実際にそのCMが放送された時の喜びが大きかったことが、今後もCMをつくる仕事をやってみたくなったいちばんの理由だ。(「はじめに」より)

とはいえ目の前には、広告の仕事をどのようにして増やしていけばいいのかという問題が立ちはだかることに。そんなとき、「一流のCMプランナーやコピーライターに聞きたいことを聞く対談本を出しませんか?」という話があり、本書が生まれたのだといいます。

しかも対談相手は、ソフトバンクモバイル「白戸家シリーズ」、au「三太郎シリーズ」、TSUBAKI「日本の女性は、美しい。」、LUMINE「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」などを生み出した名だたるコピーライター・CMプランナーばかり。お笑い芸人との“異種格闘技”は、そこに広告制作という共通項があったとしてもなかなかに新鮮です。

きょうは、ビタミン炭酸MATCH「青春がないのも、青春だ。」、カロリーメイト「とどけ、熱量。」などのCMを手がけてきた福部明浩さんとの対談「世の中に広がりやすい言葉はどのようにつくるのか?」から、興味深いトピックを引き出してみたいと思います。

アイデアは数独を解くように

「CMって、どうやって考えられているんですか?」というシンプルな問いに対して、福部さんは次のように答えています。

福部 数独って、やったことあります?

五明 いや、ないです。

福部 縦3マス横3マスのブロックが9個あって、そのなかに1~9までの数を重ならないように入れていくっていうパズルなんですけど、僕のなかではそれに近いですね。(208ページより)

たとえば2017年に、Mr. Childrenを起用したdocomoの25周年のCMが話題を呼びました。そのCM製作時には最初にdocomo側から「25周年の記念にMr. Childrenでなにかやりたい」という希望が出されたため、まずはそれがひとつの軸としてあったのだそうです。

とはいっても、「docomoはよかったね」「ミスチルの曲はよかったね」と過去を振り返るだけだと嫌だという思いがあったため、「未来に向かうイメージを与えられるほうがいいな」という軸を建てたのだといいます。

そして3つ目の軸は、docomoがずっと使っていた「いつか、あたりまえになることを」というタグライン(ロゴマークに添えられたり、CMの最後に流れたりする、企業やブランドが持つ価値を端的に表現したもの)。

これら3つの軸をスタートラインとして、そこから「子どもにとって親は当たり前にいる存在だけど、昔はそうじゃなかったよな」と考えを進めていき、その結果として、「いま17歳の女の子がいて、その女の子のお父さんとお母さんが出会ったのが17歳」という設定が浮かんだのだといいます。

その結果、お父さんとお母さんが25歳だった2000年に子どもが生まれたとしたら、「CMが放送される2017年には子どもが17歳になっている」と逆算して考え、あのCMができたというのです。

福部 だから、過去を振り返るけど、子どもにしたら未来があるじゃない? 今の自分の年齢でお父さんとお母さんが出会って、その後結婚して自分を生んだっていうのは。そして、子どもが当たり前に思っているお父さん、お母さんが実はdocomoの携帯やミスチルの歌でつながっていたとしたら、ストーリーとして成立するなっていう。

五明 なるほど。今、数独を調べたんですけど、見るだけでめまいが…。

福部 本当は、こういう数独を解く感じでやりたいわけ。「ハマった!」っていう。

五明 じゃ、もう数式みたいな感じで。「イコールこれだ」バン! みたいな感じですか?

福部 何か、クロスするところがあるんですよね。「これしかない」って軸に上手くはまっていく心地よさがあって。

(209ページより)

とはいえ、アイデアを出したり、それを形にすることは楽なことではないはず。たとえば気になるのは煮詰まった場合の対処法ですが、このことについても福部さんは興味深い回答をしています。

五明 福部さんはCMをつくっていて煮詰まることって、ありますか?

福部 ありますよ、しょっちゅう。

五明 そういう時は何をするんですか?

福部 えーとね、つまらなくてもいいから、とにかく1回、形にする。一応、1回つくってみる。1個できたら、もう少し粘って、つまらなくていいから、3個くらいつくる。そうすると、何となく気が楽になるというか。何もないまま悩むのがいちばん深みにはまるから。

五明 つまらないと思いながらつくるのは、辛くないですか?

福部 うん。だけど、その過程で次にいいものが生まれてくるという経験があるから。形にして見ることが大事なの。そうしたら、どこがつまらないかも分かるじゃない? そうすると、全然違うけど、「こういうのはどうかな」というのが生まれやすい。

(213ページより)

だからこそ、「もし煮詰まったら、一度、形にしてみることはオススメ」だと福部さん。つまらなくてもいいからつくってみると、その先にある「なにか」が見えるかもしれない。1回やってみて、「うわ、マジつまらないわ」となったら、そこからなにか始まるかもしれないという考え方です。

福部 「つまらなくてもいいから」って思いながらも、というのが大事で、そう思いながらつくると、出来上がったものは、やっぱりつまらないじゃないですか。でも、その出来上がった物を見ると「何か足りないな」の「何か」が明快になる。漠然と「何か、ないな」というよりは、「この案はこういうところがつまらないから、ここを全然違う、こういうのにしてみよう」とか。僕は最近、そうやっています。

(215ページより)

つまり、まずはマスを埋めてみるということ。数独でいえば、「こことここ」で見るとうまくいっているけれど、「ここの条件」がうまくハマっていないということが起こるはず。しかしそれでも、とりあえず「5」と書いてみる。すると、「あ、こっちが違う、こっちも違う、じゃあ、ここにしよう」というように見えてくるものがあるわけです。

一方、「煮詰まっている」というのは、書かずにずっと悩んでいる状態。それでは、つくる精神からどんどん遠くなり、「もうギブ…」となってしまっても当然。だからこそ、「煮詰まったとしても、一度形にする」ことが大切だというのです。

なぜなら、そうすれば「なにが足りないか」が見えてくるから。これは職種に関係なく、どんな仕事にも当てはまることなのではないでしょうか?(207ページより)

たとえばこのように、広告制作以外の仕事にも役立つヒント満載。しかも対談形式なので、無理なく読み進めることができるはずです。巻末に掲載されている、又吉直樹さんとの特別対談も必読。多くの方に響く内容なので、ぜひ手にとってみてほしいと感じました。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年4月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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