<東北の本棚>四季や追悼、旅など400句
[レビュアー] 河北新報
春、夏、秋、冬の四季の風景、東日本大震災の追悼、旅の印象など、ここ18年の作品から400句を収録、6章で構成した。
著者は1943年大崎市生まれ、仙台市に住む。「海程」同人。
<二人家族かたくりの花片えくぼ>。春を告げるカタクリが自宅庭に咲いているのを、夫と見つけた。子どもたちは独立して家を離れた。そのさみしさを「片えくぼ」で表現した。<雲海の本気下界を憂いおり>。夏の北アルプスに夫婦で登った。雲海が「本気」を出して、隙間なく下界を覆っていた。
大震災で宮城県南三陸町にいた伯母が犠牲になった。<星朧声重なるように波がしら>。仙台市若林区の荒浜を訪ねた。波頭が死者の声に重なっているように聞こえた。<送り火や辛いもの食ぶ生者>。生き残った者は、たとえ辛い物でも食べて生きている。人の業を描いた。
2002年の「海程」の全国大会が、主宰者の故金子兜太さんの出身地である埼玉県で開催された。吟行でなかなかいい句が浮かばない。著者の傍らでマムシグサが生えていて「思わずポンポンとたたくと、心が落ち着いた」と言う。著者の作、<まむし草原始楽器のごと叩く>が兜太さんの選となった。句集の題はこれに由来する。
文学の森03(5292)9188=2776円。