<東北の本棚>国際情勢、歴史映し出す
[レビュアー] 河北新報
古代から近現代まで、国旗は激動する歴史の現場に居合わせてきた。国の象徴であり、一つ一つのデザインには各国の民族性や思想、自然環境などさまざまな要素が込められている。五輪の裏方も務めた著書が、国旗が見つめた世界の歴史的瞬間や知られざるエピソードを紹介している。
1964年の東京五輪で組織委員会国旗担当専門職員だった著書が最も苦労したのが日本の国旗だった。当時はまだ1870年の太政官布告が有効で、日の丸の円の直径は縦の長さの5分の3、中心はさお側に横の100分の1ずれると定められていた。これを守るため各省庁が掲げる国旗を確認するなど、神経をすり減らしたという。
1998年の長野冬季五輪では、円の直径を縦の3分の2に少し大きくし、旗面中心に配置。99年に国旗国歌法が施行されて改めてデザインが規定されたが、時代に揺れ動いた日の丸の歴史がうかがえる。
45年、東京湾の米戦艦ミズーリで日本の降伏文書調印式が行われた時のエピソードも印象的だ。式典の壁には星条旗が掲げられた。米国の州の数を表す星の数は31。当時48州あったが、マッカーサー連合国軍最高司令官はあえて1853年にペリーが日本来航時に掲げた星条旗を使った。
「まるで、米国がこの旗を掲げて文明を教えたことを忘れて、日本が戦端を開いたとでも言わんかのような威圧感があった」。署名した重光葵外相に同行した外交官から著者はそう聞かされた。国旗に目を凝らせば時の国際情勢が見えてくる。意外な角度から歴史を読み解くようで興味深い。
著書は1941年秋田市生まれ。NPO法人「世界の国旗研究協会」会長兼理事長。
祥伝社03(3265)2081=907円。