【児童書】『じてんしゃ がしゃがしゃ』かさいまり文、山本久美子絵
[レビュアー] 永井優子
■誰もが通過する人生の季節
小さな体に合った自転車を買ってもらったとき、一人でどこへでも行ける気がした。夢中でこぐと、補助輪ががしゃがしゃ鳴って、心も体もはずむようだった。補助輪を外したのはいつだったろうか。後ろを押さえてもらって、家族総出の声援を受けた。できることが少しずつ増えていく子供時代は、なんと輝かしい時間だったことだろう。
誕生日にお父さんに自転車を買ってもらった男の子、ゆうた。白く雲が刷(は)かれた青空、緑の草がなびく土手、補助輪があるからこわくないもん、「がしゃがしゃ すいすい」、ゆうたの自転車はどんどん進む。友達とも一緒に「がしゃがしゃ すいすい」。やがて、みんな補助輪を外すときが来る。仕事で遠いところに行ったお父さんとの約束で、ゆうたはなかなか補助輪を外すことができない。「よわむし」と言われても、じっと我慢して…。
誰もが通過し、走り抜ける人生の季節。やがて大人になって、誰かを見守る立場になる。自転車を包む風の色のように、さわやかな一冊。(絵本塾出版・1400円+税)
永井優子