矢部太郎×ヨシタケシンスケ、売れっ子作家の意外な悩み

対談・鼎談

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大家さんと僕

『大家さんと僕』

著者
矢部 太郎 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784103512110
発売日
2017/10/31
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【『大家さんと僕』大ヒット記念対談】矢部太郎×ヨシタケシンスケ 「考えちゃう派」の僕たち

ヨシタケシンスケさん
ヨシタケシンスケ
1973年神奈川県生まれ。『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)で、第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。著書に、『りゆうがあります』(PHP研究所)、『あるかしら書店』(ポプラ社)などがある。2児の父。

 言い訳が必要?

ヨシタケ 僕は失敗したときの言い訳のために沢山の球を投げるようにしているところがあります。矢部さんの場合はどうですか?

矢部 言い訳は大事ですよね。僕の場合は『大家さんと僕』は実話だから面白くなくても僕に責任はないし、人にその話をしたときに「その話描いたらどう?」と勧められたことがそもそも描き始めるきっかけだったので、最初から言い訳が用意されている状態でした。自分で「描こう」とは決められなかったと思うので、それによって描き始められたと思っています。でも言い訳があることで最初から怖いものがなかったし、全力で取り組むことができました。実際に漫画を描くのは楽しかったですし、好きになりました。

ヨシタケ 言い訳が外部に用意されていると心が楽になりますよね。僕も絵本作家になって以来、イラストレーター時代にはなかった「自分で決めないといけないこと」がすごく増えて、それが苦手なので困っています。

矢部 食事とか、休日の過ごし方とかを決めるのも苦手ですか?

ヨシタケ 苦手ですね。全部誰かに決めてほしい。トランプゲームも苦手なんです。手持ちのカードの中のどれかを捨てないといけない、それを選ぶのが苦手で……。

矢部 分かります。僕はものごとのタイミングを決めるのが苦手です。みんなで食事に行ったとき、僕が一番年長だと、僕が「帰ろう」と言い出さないといけないのですが、もう少し長くいたいと思ってる人がいるかもしれないと思うと言えなくて、結局いつも閉店まで残っています。

ヨシタケ 僕らみたいに考えすぎちゃう人はクリエイティブな仕事には不向きだと思っていたんですけど、最近では逆に、だからこそ目新しいものが作れるのかなと思うようにしています。

矢部 ヨシタケさんは、ほかに苦手なことはありますか?

ヨシタケ 大きな絵を描くことが苦手です。僕は原画が小さいんです。絵本にするときはいつも拡大してもらっています。

矢部 え? 絵本は原画を縮小しているのだと思っていました。

ヨシタケ そういう方が多いと思います。縮小したほうが線も滑らかになりますし。でも僕にとって、絵は小さく描くほうが描きやすいんですよね。色を自分でつけるとか、大きな絵を描くとか、お題を自分で考えるとか、絵本作家のスタンダードなことを僕はできていない。だからこそ僕は、ちょっと違う風にみられるところがあるんだと思います。絵本の師匠みたいな方についていたらこうなっていなかっただろうなと思います。

イラスト=矢部太郎・ヨシタケシンスケ 写真=青木登

新潮社 小説新潮
2018年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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