『国策紙芝居からみる日本の戦争』 神奈川大学日本常民文化研究所非文字資料研究センター「戦時下日本の大衆メディア」研究班(代表・安田常雄)編著

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『国策紙芝居からみる日本の戦争』 神奈川大学日本常民文化研究所非文字資料研究センター「戦時下日本の大衆メディア」研究班(代表・安田常雄)編著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

日本人の深層映す

 紙芝居は、昭和初期の日本で生まれた。戦後、GHQは紙芝居というメディアを初めて知り、児童への影響力に驚き、厳格な検閲を行った。今日ではその教育効果が再評価され、途上国や欧米でも手作りの「kamishibai」の新作が上演されている。

 紙芝居といえば、大人が街角で子供を集めて駄菓子を売る「街頭紙芝居」が思い浮かぶが、宗教家や教育家が作る「教育紙芝居」や、政府・軍・翼賛団体の指示で作られた「国策紙芝居」もあった。1937年から45年までの国策紙芝居は、敗戦後、大半が焼却された。

 本書は、神奈川大学が研究資料として所蔵する国策紙芝居の作品241点についての研究報告書である。前半の解題篇(へん)では、国策紙芝居の作品をカラー図像、あらすじ、解題によって紹介する。後半は論考篇とデータ篇である。

 国策紙芝居は、絵がらも内容も個性的だ。横山隆一の漫画の主人公「フクチャン」がお小遣いで戦時国債を買う日常系の作品もあれば、戦艦プリンス・オブ・ウェールズ撃沈の航空作戦を描く劇画戦記もある。今は死語になって久しい「健康優良児」金太郎の話や、一ツ目小僧をつかまえに行った見世物師が彼らの国で「二ツ目小僧」として見世物になる寓話(ぐうわ)など、戦時色を感じない昔話もある。出征兵士の死と残された家族の表情を描く「チョコレートと兵隊」や「時計は生きてゐる」、真夜中の防空壕(ごう)を全編白黒で描く異色作「午前二時」=画=などは、そのまま平和教育にも使えそうだ。

 どの作品も、子供相手だからといって、全く手を抜いていない。

 後半の論文も興味深い。例えば、国策紙芝居には天皇の姿が全く描かれない、という指摘は鋭い。これは戦後の特撮映画で怪獣が皇居をスルーする源流かもしれない。

 紙芝居は、あなどれない。本書は、日本人の深層を考えるヒントの宝庫でもある。

 勉誠出版 6000円

読売新聞
2018年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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