『現代アートとは何か』 小崎哲哉著

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現代アートとは何か

『現代アートとは何か』

著者
小崎 哲哉 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784309279299
発売日
2018/03/27
価格
2,916円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『現代アートとは何か』 小崎哲哉著

[レビュアー] 伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

誰が価値を決めるのか

 なぜあの作品はもてはやされ、この作品はそうではないのか。商品一般であれば、需要と供給のバランスによって自(おの)ずとその価値は決まる。しかし大量生産ではないアートにおいてはそうはいかない。アートの世界を動かす力とは何なのか、その力学を、世界中の現場を渡り歩いてきたアートジャーナリズムの第一人者が読み解いてみせる。

 現代アートの本としては意外なことに、作品の図版は多くない。代わりに現れるのは、コレクターの、批評家の、キュレーターの、顔、顔、顔。つまり本書は徹底した「プレイヤー主義」なのだ。何度も言及されるのは、イギリスの美術雑誌『アートレヴュー』が毎年発表するランキング「POWER100」だ。その人物のアート界における影響力の大きさを示すランキングで、各国の識者が匿名で寄せる助言に基づいて作成されている。

 たとえば二〇一三年に弱冠三〇歳にしてランキングトップに輝いた女性バイヤーがいる。中東カタールのマヤッサ王女だ。アラブ首長国連邦の各国が、ルーヴル美術館の分館を建設したり、アートフェアを開催したりするなど、「借り物」中心の文化・観光振興を図っているのに対し、カタールは違う。あくまで自前のコレクションを築くことにこだわり、世界最大のバイヤーとなっているのだ。まさに「現代のメディチ家」として数億ドルでセザンヌやゴーギャンを購入、二〇一〇年にヴェルサイユ宮殿で開催された村上隆の個展にも資金提供している。もっとも、その作品選択の基準が、あまりに西洋のそれに依存しすぎていやしないか、と著者は疑問も呈している。

 作品でなくプレイヤーに注目する視点は、下世話に映るかもしれない。著者もそれを「ゴシップ」と言い切る。しかし現代アートを理解するためには、セオリーだけでなく、人の動きにも目を配る必要がある。矛盾を突く超辛口の評とともに、舞台の表と裏から考えたい。

 ◇おざき・てつや=1955年生まれ。京都造形芸術大舞台芸術研究センター主任研究員。

 河出書房新社 2700円

読売新聞
2018年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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