「書店ガール」著者がおくる“異例の昇進”女性の物語

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駒子さんは出世なんてしたくなかった

『駒子さんは出世なんてしたくなかった』

著者
碧野圭 [著]
出版社
キノブックス
ISBN
9784908059933
発売日
2018/02/28
価格
1,650円(税込)

異例の昇進をした出版社の女性を通して描く“身につまされる”話

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 碧野圭と言えば、ドラマ化もされた「書店ガール」シリーズでおなじみだが、デビュー作『辞めない理由』は、出版社勤めの主人公が理不尽な降格人事に遭い、どん底から敢然と立ち上がる――というワーキングマザー小説だった。その12年後に出た最新長編『駒子さんは出世なんてしたくなかった』は、ちょうどその裏返しのような物語だ。

 水上(みなかみ)駒子は、大手出版社勤務の42歳。編集ではなく、管理部門の課長として他部署のサポート役に徹している。ひとり息子の櫂(かい)は高校生。フリーカメラマンだった夫は専業主夫になり、家事全般と子育てを完璧にこなしてくれている。そんな彼女の充実した生活を一変させたのは、昇進の辞令。急遽立ち上げが決まった新規事業部の次長に、駒子と岡村梓(文芸編集畑のやり手課長)の二人が抜擢されたのである。この会社で女性が次長になるのは史上初。しかも、年度内にはどちらかが部長になることが既定路線だという。だが、このサプライズ人事には裏事情があった。文芸部門の辣腕部長が起こしたセクハラ事件がもとで、女性が働きにくい会社だという評判が立ち、あわててイメージ回復に走った結果らしい。

「女だから贔屓されてる」など、嫉妬と羨望が渦巻くなか、セクハラ事件の当の被害者や、コスト感覚ゼロの俳句雑誌編集部員たちを部下に抱えて、駒子の部署は船出する。が、それと前後して夫が仕事を再開。息子は高校をやめると言い出し、私生活も大騒動に……。

 会社でテンパると、家庭の面倒を夫に押しつけがちになる駒子は、世の会社員パパそのまま。公私両面の難題を、彼女はどう乗り切るのか?

 ふだん光があたらない出版社の労務管理や採算管理に切り込むお仕事小説の要素に加え、セクハラや時短勤務などの社会的な問題も盛り込まれている。派手なドラマがあるわけではないが、身につまされつつぐいぐい読めて、スカッとできる一冊。

新潮社 週刊新潮
2018年5月17日菖蒲月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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