全盛期は653万部 「ジャンプ」元編集長が明かす舞台裏

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

元編集長が初めて明かす創刊から黄金期までの舞台裏

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 今年、「週刊少年ジャンプ」(以下「ジャンプ」)は創刊50周年を迎える。元編集長である著者が、新入社員として「ジャンプ」編集部に配属されたのは創刊から2年後の1970年。発行部数はすでに100万部を超えていた。編集長に就任した86年が450万部。退任翌年の94年には653万部の最高記録に達した。

 そんな「ジャンプ」の歴史を、どんな漫画家がどのような作品を描いてきたのかという、最も興味深い視点でたどっていくのが本書だ。おかげで回想記を超えた漫画家論、漫画作品論、そして漫画創作技術論になっている。たとえば、創刊当時はギャグ漫画が主流だった「ジャンプ」に革命を起こしたのは本宮ひろ志『男一匹ガキ大将』だ。キーワードは暴力、金力、権力の3つ。著者はアクションシーンの構図や感動シーンの演出などを通じて魅力を解説する。

 また鳥山明『DRAGON BALL』の面白さの要因はキャラクターの造形と描写であり、人間関係も物語展開もシンプルであることだと指摘。それは言葉よりも「映像の連続で考える」鳥山の姿勢から来ていた。さらにスポーツ漫画の金字塔、井上雄彦(たけひこ)の『SLAM DUNK』。ワンシーンの細部に宿るキャラクター像が見事だが、それを支えているのは井上の図抜けた画力だという。

 本書のもう一つの特色は、漫画家と編集者との関係を明かしていることだ。元々「ジャンプ」は後発だったため、新人の育成に力を入れてきた。著者が初めて担当した新人は『アストロ球団』の中島徳博だ。より読者の意表をつくアイデアを求める若い2人は、二人三脚どころか七転八倒。激した著者は、なんと中島の頭をトレーシングペーパーで殴ってしまう。漫画が最も熱い時代の熱いエピソードだ。

 よく知られているように、「友情」「努力」「勝利」はこの少年漫画誌の編集方針だが、漫画家と編集者と読者をつなぐ約束の言葉でもある。

新潮社 週刊新潮
2018年5月17日菖蒲月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク