「田舎の閉塞感」描く作 「負け逃げ」ほか

レビュー

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  • 負け逃げ
  • 鍵のない夢を見る
  • フラナリー・オコナー全短篇 上

書籍情報:版元ドットコム

田舎の閉塞感、見えない素顔を照らしだす群像劇

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 明かりが少ない田舎は、夜の訪れが早い。音楽を聴きながら国道を自転車で爆走することによって長い夜の恐ろしさから逃れようとしていた少年は、足が不自由なのに真面目でがんばり屋という評判の少女の秘密を偶然知ってしまう。少女は不特定多数の男とセックスすることが〈この村に対して私ができる、唯一の復讐だよ〉と言うが……。こざわたまこ『負け逃げ』は、小さな村に暮らす人々の昼間は見えない素顔を照らしだす群像劇。

 初めて読んだときは、四十代未婚の高校教師があまりにも生々しく絶望的にときめきがない恋に落ちる第三章「蠅」に引き込まれた。再読して改めて魅力に気づいたのは、第二章の「美しく、輝く」だ。

 語り手の「私」は、漫画家になりたい女子高生。オタクを馬鹿にする友達には自分の夢を内緒にしていたが、同じクラスで漫画家志望の仲間を見つける。〈私なんか〉が口癖でいつもひとりぼっちの美輝ちゃんだ。放課後、二人はひそかに漫画の話をするようになる。しかし、漫画を逃げ場にしているだけの「私」は、下手でもちゃんと作品を完成させて他人に見せる勇気を持つ美輝ちゃんに複雑な思いを抱くようになっていく。いっとき美しく輝いて儚(はかな)く消えた友情の物語。「私」が〈漆黒の世界地図〉に見立てた夜の川に小さな明かりを灯すくだりがいい。著者にとって小説は生きるのに不可欠な光なのだということがわかる。

『負け逃げ』の帯に推薦文を寄せている辻村深月の直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』(文春文庫)は、地方出身の五人の女性を主人公にした短編集。地元に残っても故郷を離れても、ここじゃないどこかを求めずにはいられない女たちの心に、犯罪という魔が差す瞬間を切り取っている。

 田舎の閉塞感は世界の閉塞感を映す。例えば、米国南部を舞台にした『フラナリー・オコナー全短篇』(ちくま文庫、上下巻)。「善人はなかなかいない」で家族と一緒にドライブに出かけたおばあちゃんを待ち受ける地獄は、救いがなさすぎていっそ清々しい。

新潮社 週刊新潮
2018年5月17日菖蒲月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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