陽のあたる機会が少ない劇作家にも。「光文三賞」の特色〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉
レビュー
『沸点桜』
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『薄い桃色のかたまり/少女ミウ』
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陽のあたる機会が少ない劇作家にも。「光文三賞」の特色
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
文学賞は、それを主催する出版社にとっての金喰い虫なんであります。受賞者に贈呈される記念品や賞金、選考委員への謝礼はまだいいとしても、大変なのは授賞式。東京會舘、帝国ホテル、ホテルオークラといった一流の会場の大広間を借りて行われるんですから、そりゃもう、大金が飛んでいくわけです。
そこで何が行われているかといえば、各社編集者の受賞者への「今度はうちでも」的な挨拶(受賞者の前には長蛇の列が)と、業界人たちの社交。会費制ではなく、酒が飲み放題な上、一流ホテルの和洋中の料理がただで食べられるので、普段は家にこもりがちな物書きたちが旧交を温めたり、業界の噂話に興じたり、編集者に自分を売り込んだり、逆に編集者が売り出し中の作家を書評家や批評家に紹介したり、そんなこんなの光景が見られる場なのです。
で、お金がかかるのだから、なるべく授賞式はまとめてやっちゃいたいというのも人情で(というのが、本意かどうか知りませんが)、本誌を発行している新潮社も、三島由紀夫賞と山本周五郎賞と川端康成文学賞の授賞式を「新潮三賞」として一緒に開催しています。
日本ミステリー文学大賞、日本ミステリー文学大賞新人賞、鶴屋南北戯曲賞をまとめた「光文三賞」の贈呈式もまた然り。
第二十一回にあたる今年の受賞者は、それぞれ夢枕獏、『沸点桜(ボイルドフラワー)』の北原真理(応募時は北祓丐コ名義)、『薄い桃色のかたまり』の岩松了。「わが国のミステリー文学の発展に著しく寄与した作家および評論家」に与えられる日本ミステリー文学大賞と新人賞は、光文社の出版傾向を考えれば不思議ではないのですが、「その年に上演された日本語で書かれた新作戯曲」に与えられる鶴屋南北戯曲賞(演劇記者七名による選考委員会を二回にわたって開き、決定)を作ったのが同社の偉いところ。
劇作家に陽があたる機会は少ないだけに、この賞は演劇関係者にとって非常に喜ばしい存在でありましょう。五回目のノミネートで受賞にこぎつけた岩松了さんを言祝(ことほ)ぎたい気持ちでいっぱいな、芝居好きのトヨザキなのです。