『曇天記』 堀江敏幸著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

曇天記

『曇天記』

著者
堀江敏幸 [著]
出版社
都市出版
ISBN
9784901783651
発売日
2018/03/24
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『曇天記』 堀江敏幸著

[レビュアー] 塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

 氏の作風を知ったのは、十一年前の『バン・マリーへの手紙』においてであった。「図書」での連載時、飄々(ひょうひょう)とした口ぶり、人を食ったような小話に、つい頬がゆるむ思いを重ねた記憶がある。

 今回、本書を手に取った際に期待したのも、そういう読書体験であった。

 冒頭の作品は期待通り。最後まで読み進めて、つい吹きそうになる。だが、本当に吹くまでには行かない。声に出して笑うことももちろんのことない。あくまで頬が緩むだけだ。その微妙さが、氏の作品の身上である。

 良かった、健全だったと読み進めてみて、しかし何かが違うことに気づく。人を食ったようなトーンには変わりは無い。しかし飄々とした語りの、その「飄々さ」に陰りというか、曇りがある。ああ、そういえば本書のタイトルは『曇天記』だった。

 やがて本書中程で読者は、あの3・11に突き当たる。しかし曇り空のもと、繰り返し道に迷いながらも著者は歩み続けている。以前のような無邪気さはないが、現実とつかず離れずの、その立場に揺るぎはない。

 都市出版 2200円

読売新聞
2018年5月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加