こだま×ペス山ポピー・対談 どんな人も生きてていい〈『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』刊行記念〉

対談・鼎談

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実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。 1

『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。 1』

著者
ペス山 ポピー [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784107720627
発売日
2018/04/09
価格
972円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

〈『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』刊行記念対談〉こだま×ペス山ポピー/どんな人も生きてていい

[文] 新潮社

周囲にひた隠してきた自分の被虐趣味=マゾヒズムを突き詰めるために、主人公は行動を開始する――。
インターネット上で圧倒的なアクセス数を誇る漫画『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』の1巻が刊行された。漫画家と、誰にも言えない秘密を赤裸々に綴ってベストセラーとなった話題の作家が語り合った。

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こだま 作品を読んで、とても衝撃を受けました。私の知らない世界で、こんな悩みを抱えている方がいるんだとページをめくりながら、驚きの連続でした。複雑な身体と性自認を巡る悩みを主題にしているのに、それほど感傷的にならず、作品の中で自己分析をしっかりしていますよね。自分は一体、何者なのかを人に会って探求しています。なぜ、こんな問題を抱えているのか。どうして、自分がこうなってしまったのかを丁寧に描くことで、主人公の悩みが読者に届く漫画になっていると思いました。「周囲に理解されにくい問題」を描いている、この作品を私はとても共感して読みました。

ペス山 ありがとうございます。恐縮です。こだまさんが書かれた作品をずっと愛読していました。悲痛な経験をしているのに、文章の中で乾いた笑いも織り込んでいる。そうかと思えば、次のページでは辛いことも書いている。「悩みを明るく笑い飛ばす」だけでなく、辛いことや痛みを感じたことをちゃんと「痛い」と書いているところが、すごく好きです。読みながら、こんな自分でも生きていていいんだと思えてきます。勝手に人生の師匠だと思っていたので、そんな方から褒められて本当に嬉しいです。

こだま 私は辛いだけの話は書かないようにしているんです。辛い話を書いたら、同じくらい笑えるように書こうと思っています。そこを読み取ってくれて、私も嬉しいです。

ペス山 前作『夫のちんぽが入らない』のほうが読んでいて辛かったんです。もちろん大好きなんですけど、作中にタイトルと同じ刺激的なワードがリフレインのように、繰り返されますよね。それが初めは笑えたのですが、段々と辛くなってしまって……。最後まで読み終えると「すごいものを読んでしまった」という充実感と疲労感と悲しみが合わさって、ごちゃ混ぜになったような感覚になりました。それが新作『ここは、おしまいの地』は読んでいると、軽やかな印象を受けます。前作は吐き出すような感じですよね。前作があったから、軽やかな読み心地の文章になったんですか?

こだま 前作を書きつつ、同時進行で連載していたエッセイが新作なんです。前作は自分の悩みをテーマにしていて、普段は絶対に書かないような話を書きました。逆に、新作のほうは普段のブログのように気軽に読めるようなエッセイを目指したんですよね。

ペス山 私は悩みをためずにさらけ出してしまうタイプなんです。こだまさんは卒業文集の「秘密の多そうな人」「早死にしそうな人」ランキングで1位になったと書いてますよね。私は小学校の時の卒業文集で「テレビに出そうな人」で1位だったんです。小学4年の時は友達がいないことを担任も親も問題だって思っていたんです。そこから卒業まで痛々しいくらい明るくしました。私って痛いけど面白いでしょって振舞っていたんです。でも、無理していたんですよね。躁状態と鬱っぽい状態を繰り返していて……。中学生の時には「冬っぽい人」ランキング1位。要は根暗ってことですよね。3年で燃料が切れたんです(笑)。

こだま 私は友達がずっといなかったんですよ。インターネットができて、自分のことが書けるようになって楽しかったんです。ペス山さんは作品にも躁鬱っぽいところがでていますよね。落ち込んでいるかと思ったら、吹っ切れて出会い系サイトにアクセスして人と会っています。ペス山さんは私と違って、幼少期から暴力シーンをみて興奮するという自分を理解しようとしていますよね。

ペス山 私は理屈をくっつけるのが好きなんです。「普通じゃない自分」というのを理屈づけることで、周囲に押し付けられる「普通さ」から身を守ろうとしたところがあります。小さい頃から社会規範にあわないというか、協調性がないタイプでした。要するに、空気が読めない子供だったんです。家の中からも外からも小さい頃から「他人と違う」と言われ続けたので、自分の立ち位置がよくわからなくなって、理屈をつけていたのかなぁと思っています。この漫画にもそれが出ているんじゃないですかね。それが面白いのか、痛々しいのかはわからないんですけど……。せめて、笑ってほしいんですけどね。

こだま 痛々しいとは思わなかったですよ。なんでだろうと思ったら解決しようという気持ちが作品に出ているじゃないですか。まずボクシンググローブを買いに走るとか。ペニスバンドをつけたパンツ姿になって、鏡の前に立ったシーンで浮かべている悦びの表情に笑ってしまいました。鏡を見たときに似合っていることがわかり、それが嬉しいというのが伝わってくるんですよね。でも次のページになると、もう一度自分が「女性」という性自認であったことが一度もないという悩みに戻っている。作品の中で自分をどんどん解放していって、「普通じゃなさ」に向き合おうとしている。読者も一緒になって、ペス山さんと悩みをどうしたら解決できるのか探していけるんですよね。ちょっと気になっていたんですけどペス山さんのように性自認が男性で、性対象も男性という女性ってご自身で出会ったことはあるんですか?

新潮社 波
2018年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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