部下の創造性を潰す「上司の一言」とは?

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思考停止する職場

『思考停止する職場』

著者
飯野謙次 [著]
出版社
大和書房
ISBN
9784479796350
発売日
2018/03/25
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

部下の創造性を潰す「上司の一言」とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

上司であるあなたの思いがうまく伝われば、部下も自分に割り当てられた作業にやりがいを感じ、作業もスムーズに進み、あなたも部下もハッピーになります。 逆にこの伝達を一つ間違えると、部下はやる気をなくし、思考停止状態に陥って、できる作業も間違えるようになり、あなたは頭を抱えることになります。

部下を思考停止に追い込んで、困るのはあなたです。 組織の思考停止も、人の思考停止も原因は同じです。組織の場合は、大きな括りの社会正義を忘れて、自分たちの目先の利益に走るのが原因です。人の思考停止を招くのは、組織という大きな括りを忘れて、自分の利益や自己満足に走ってしまう結果、起こることです。それも自分の思考停止だけではなく、部下の思考停止をも招いてしまうのだから、良くありません。(「はじめに」より)

思考停止する職場 同じ過ちを繰り返す原因、すべてを解決するしかけ』(飯野謙次著、大和書房)の著者は、本書の冒頭でこう主張しています。スタンフォード大学工学博士であり、特定非営利活動法人「失敗学会」副会長という肩書きも持った人物。

そうした実績を踏まえ、本書では、「職場での思考停止を招かないために、上司はなにを考えなければいけないのか」「部下の潜在能力を引き出し、自分のグループの活力を倍増させるためのコミュニケーション」について解説しているわけです。ちなみにこれを「エムパワリング・コミュニケーション(Empowering Communication)」と呼ぶのだとか。

エムパワリング・コミュニケーションは、何もないところから発生したわけではありません。私たちは、「失敗学」という考え方を実践しています。失敗というネガティブな概念をひっくり返し、それが発現したら、それを繰り返さないための方策を、精神論ではなく、具体的に考え、創造するやり方です。 失敗に直面したときに思考停止に陥っては、同じ失敗を繰り返すだけです。このときに、創造的方法で失敗を繰り返さないよう考えるのは、失敗がくれた発展のためのチャンスだと考えます。(「はじめに」より)

きょうはそんな本書のなかから、どのような話し方が人の創造性を潰してしまうのかを解説した第3章「こわいのは、上司のこのひと言」から、いくつかの言葉を引き出してみたいと思います。

「リスクがある」 否定しづらい正しさのようなものがあるが……

人は責任ある立場に立つと、つい保守的になってしまうもの。自分の立場の居心地のよさ、「このまま問題を起こさなければ、さらに上に進める」というような勘違いがそうさせるということ。だから部下が新しい提案をしてきて、いままでのやり方を変えることになったら、「失敗するかもしれない」と臆病な気持ちになるわけです。

しかしそれでは、めまぐるしく進化する現代の競争についていくための成長を望むことは困難。しかもそれは開発部門に限ったことではなく、新規性とは関係がなさそうな総務部門でも同じだといいます。新しい提案を受け入れることができれば、総務の実務をこなすツールがどんどん開発され、業務が合理化されていくはずだから。

そうした環境のなかで、グループの誰かが新しい提案をしたとき、「リスクがあるから」と試しもしないで潰してしまうのは、とてももったいないこと。

リスクがあるのは当然です。その評価もしないうちの提案であれば、それは部下の考えが甘いといえましょう。しかし、リスクがあるから止めるというのもいい指導ではありません。リスクの評価を部下にやらせてみることです。(161ページより)

その結果、思いつきの段階では気づかなかった確率の高い大きなリスクに自分で気がつき、部下も諦めるかも。あるいはリスクをきちんと評価して、大きく成功するストーリーが展開でき、上司への説得に成功するかもしれないわけです。(160ページより)

「成功例はあるの?」 必勝パターンにのっとった発想をうながすだけ

大成功をする製品は、成功例などないのが当たり前。隣の石橋を叩いてみて、それから自分も石橋を造り始めるのでは遅すぎますし、成功に結びつかないということです。

情報をはじめ、いまは教育や先端研究の論文も、生産技術も、世界が均質化しています。そんななか、既存の製品やサービスをなぞり、改良を加え、そこから生きる道を開こうとすると、プレーヤーの多い熾烈な競争に巻き込まれ、やがては均質化して同じ生活水準となるだけのこと。

先人たちの努力の結果、日本の生活水準は世界のトップクラスとはいえないまでも、いい位置につけています。アジアのなかでは1、2を争う国です。その位置をキープし、さらに上位を目指すなら、成功例を追うのではなく、新しい成功例を生み出すところで勝負をしていかなければなりません。(164ページより)

下からどんどん新しいプレーヤーが参入してくる前例踏襲型の場所に居座り続けると、均質化のなかに取り残されてしまうということ。しかしそうではなく、世界のリーダーたちがしのぎを削る場、新しいものを世に送り出す競争に参入しなければならないということです。(163ページより)

「それ、ニーズあるの?」 すでにあるなら、そのアイデアは「もう古い」

「ニーズはあるの?」は、成功例を聞き出そうとするのと同じ質問。これも、既存技術の改良に長けた高度成長期の名残であると著者は指摘しています。

ニーズがあるとわかっているものであれば、当然誰でも気がつくはず。だから、そこで競争を始めれば、価格競争という、日本では勝てない土俵に上がることになるだけ。

古来、日本人は多くの工業製品をつくり、サービスを提供してきました。その結果、生活は豊かになったわけです。もちろん、世に出てすぐになくなる商品やサービスも少なくはありませんが、それも意義のあること。そうした動きを止めてしまっては、じっとしてただ生きているだけということになります。

私たちが新しいニーズを開拓することがなくなっても、他の誰かが試行錯誤の末にそれを見つけるでしょう。ニーズがないからと、新しい試みをやらないのは、じっと世の中をみながら自分の殻に閉じこもった単なる傍観者に他なりません。(166ページより)

自分とは違った教育を受け、違った社会環境のなかで育ってきた若い世代は、上司と感性が違って当然。その感性を「いけるかもしれない」と認めることは、新しい時代が発展し、成長するために必要なことだという考え方。

もちろん当たらない可能性もあるわけですが、だからといって、自分の古い感覚でその試行錯誤を止めてしまうべきではないということ。それは、成長しなければならない社会に対し、損失をもたらす行為だとすらいえるというのです。(165ページより)

「うちの業界はね…」 過去のモデルにこだわるのは危機的状況

部下が新しい提案をしているとき、その内容を判断できた途端、上司はその判断結果を部下に伝えたくなるもの。しかしそんなとき、相手の話を遮ってしまっては部下を教育するチャンスをみすみす逃すことになるだけ。

さらに部下の思考を途中で停止させるようなことが続くと、やがて部下は作業に取りかかる際、自分で考えることをやめてしまい、上司の指示を待つだけの人になってしまうのだと著者はいいます。でも、それでは上司自身が、作業の手順を考えることからいつまでたっても解放されないことになります。

真剣に部下が説明をしているときは、ミニプレゼンの練習のようなものです。一応の区切りがつくまで説明をしてもらうことです。 さえぎるにしても、「うちの業界はね…」などというのはずるいやり方です。あなたは部下よりも長く、その「業界」にいるのだから知識が豊富なのは当たり前です。あなたの意見としてではなく、業界の決まりごとのように提案の否定を突きつけられた部下は、反論の機会さえ奪われてしまいます。(167ページより)

そんなことを言われた部下は、「業界の常識」という、自分ではよく理解できていない知識におびえてしまうかもしれません。そしてその結果、以後の自由な発想が萎縮してしまうことになるわけです。

上司にとっては常識であっても、人間として部下に相対し、部下の提案について一緒に考えることが大切だということ。

そうすれば部下にも、それまで気づかなかった自分の弱点に気づく可能性が生まれます。上司も話し合いを通じ、いままで実践していた業界の常識に沿ったやり方を打ち壊し、新たなビジネスチャンスを発見できるかも。

これからは想像的に自分で考えて仕事を進めなければいけないからこそ、「業界の常識」に執着すべきではないということです。(166ページより)

思考停止状態を打破し、「思考が動く職場」にするための手段を、アカデミックに論じた1冊。著者の豊富な経験に基づいているだけに、説得力も申し分ありません。職場を改善したいという意思をお持ちなら、ぜひ読んでおきたいところです。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年5月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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