『乗客ナンバー23の消失』 セバスチャン・フィツェック著

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乗客ナンバー23の消失

『乗客ナンバー23の消失』

著者
セバスチャン・フィツェック [著]/酒寄 進一 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784163908182
発売日
2018/03/28
価格
2,430円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『乗客ナンバー23の消失』 セバスチャン・フィツェック著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

独ミステリーの最高峰

 海外ミステリーがお好きな方なら、二〇〇七年に著者が『治療島』をひっさげて本邦へ初上陸したときの驚きをご記憶だろう。スウェーデン作家スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』シリーズが大ヒットして、英米作品中心だった海外ミステリーの翻訳事情が変わり始めたところだった。ただ、スウェーデンはもともと古典的名作『刑事マルティン・ベック』シリーズを生み出したミステリー大国だし、北欧諸国では多彩な作家がバラエティ豊かな作品を書いており、それらが次々と邦訳されることで北欧ミステリー人気を盤石なものにし得たのに対して、ドイツ産ミステリーは当時ほぼ初見の上、フィツェックの孤軍奮闘。近年まで二〇一二年の『アイ・コレクター』などの続刊はあっても、話題性には乏しくなっていた。

 しかし邦訳が切れていただけで、フィツェックはバリバリ書いていたのだ。本書は「ドイツ・ミステリー界の寵児(ちょうじ)」である彼の現時点での最高傑作と評される長編だ。大西洋を横断する豪華客船「海のスルタン」号で、母親と共に忽然(こつぜん)と姿を消した少女アヌークが、その二ヶ月後に再び船内に現れる。スルタン号では五年前、ドイツ警察の捜査官マルティン・シュヴァルツの妻ナージャと息子ティムもまたクルージング中に消えており、アヌークは現れたときティムのテディベアを持っていた。妻子の身に何が起きたのか突き止めるため、マルティンは単身この呪われた豪華客船に乗り込む。一つの町ほどの規模があり、何でも揃(そろ)っている船内に、警察組織だけは存在しない。いくつもの悪意と欲望が交錯するなかで、孤立無援のマルティンは謎を解けるのか。

 ほんの数行で展開が変わるジェットコースター・スリラーなので、目を離してはいけません。著者の謝辞のページで読むのをやめてもいけません。この二点だけ、どうぞご注意を。酒寄進一訳。

 ◇Sebastian Fitzek=1971年、ベルリン生まれ。放送局勤務の傍ら、2006年に『治療島』で作家デビュー。

 文芸春秋 2250円

読売新聞
2018年5月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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