『「少年ジャンプ」 黄金のキセキ』 後藤広喜著

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「少年ジャンプ」黄金のキセキ

『「少年ジャンプ」黄金のキセキ』

著者
後藤 広喜 [著]
出版社
ホーム社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784834253184
発売日
2018/03/26
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『「少年ジャンプ」 黄金のキセキ』 後藤広喜著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

653万部の舞台裏

 プロが書いた本は面白い。達成不可能と思える目標を前に、知恵をしぼり、骨身をけずり、道なき道を切り開く。そんな仕事人の経験談は、専門分野が違っても、ヒントの宝庫だ。

 本書の著者は、集英社の漫画週刊誌「少年ジャンプ」の元編集長である。同誌の創刊は1968年。著者は70年に入社し、23年6か月も同誌の編集にかかわった。当初の発行部数は10万5000部だったが、右肩あがりで増え、1994年には653万部に達した。奇跡的な軌跡だが、栄光の舞台裏は生々しかった。失敗や苦悩はつきなかった。編集者と漫画家の葛藤もあった。そんな歩みを、著者は包み隠さず説き明かす。早期の連載作品「ハレンチ学園」「男一匹ガキ大将」から、黄金期の「DRAGON(ドラゴン) BALL(ボール)」「聖闘士星矢(セイントセイヤ)」「SLAM(スラム) DUNK(ダンク)」まで、ヒット作の裏には、秘訣(ひけつ)や名人芸よりも、血のにじむような努力があった。

 「少年ジャンプ」の編集者は、読者である子どもをなめなかった。毎週、徹底した読者アンケートを行い、読者像を把握した。「友情」「努力」「勝利」という有名な編集方針の三本柱も、漫画作りのノウハウとして考案したものではない。調査で得た読者像そのものだった。人気アンケートの調査結果を見て、連載を非情に打ち切ることも多々あった。

 著者は過去をふりかえり、謙虚に語る。

「我々編集者は、簡単に新人漫画家の育成というが、むしろ新人漫画家の才能と創作エネルギーによって、漫画編集者として育てられたとも言えるのだ」「時代の変遷とは恐ろしいものだ。変化は足音も立てずに忍び寄り、気づいた時には、時代は別の顔をみせる。編集者の戦いとは、読者の想像力との戦い。そして時代との戦いであるかも知れない」

 筆者は大学の研究者だが、本書を読み、われわれ研究者も学生によって育てられ、時代と戦うことに気づいた。やはり、プロの本は面白い。

 ◇ごとう・ひろき=1945年生まれ。70年集英社入社。「週刊少年ジャンプ」編集長、同社取締役などを歴任。

 集英社 1600円

読売新聞
2018年5月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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