『一九五〇年代、批評の政治学』 佐藤泉著

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一九五〇年代、批評の政治学

『一九五〇年代、批評の政治学』

著者
佐藤 泉 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784120050688
発売日
2018/03/28
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『一九五〇年代、批評の政治学』 佐藤泉著

[レビュアー] 藤原辰史(農業史研究者)

 占領、朝鮮戦争、繰り返される核実験、講和条約、そして安保で終わりを告げる一九五〇年代とはいかなる時代だっただろうか。

 著者は、竹内好、花田清輝、谷川雁という書き手の残した言葉を読み解き、彼らの時代感覚の鋭さというよりは、あの時代だからこそ遂行できた思考実験の特異さに着目する。その誰にも、「アジア」と「集団」という概念がある、というのが著者の主張だ。

 中国と連帯するナショナリズムを模索した竹内好、人間性の不滅さではなく、人間性のもろさにこそコミュニズムの突破口を見出(みいだ)した花田清輝、サークル村の実践のなかで、誰かの私有物ではない言葉の輝きを探った谷川雁。仲が良いわけではない三人のだれもが、安全圏で平和と平等を謳歌(おうか)する「良識派」とは一線を画し、戦争におもねった文化を拒絶したうえで、戦争の懐(ふところ)にあった理論と実践を奪取することも恐れなかった。

 そこには、教科書的な戦後民主主義擁護の言説ではなく、むしろ、その硬直性を打破し、なにかとんでもない人間や集団を生み出そうとする荒々しい熱を感じる。(中公叢書、2000円)

読売新聞
2018年5月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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