無料にしたらどうなる? 古今東西の事例から学ぶアイデアのひらめき方

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ひらめきスイッチ大全

『ひらめきスイッチ大全』

著者
知的創造研究会 [編]
出版社
日本経済新聞出版社
ISBN
9784532198602
発売日
2018/04/28
価格
1,100円(税込)

無料にしたらどうなる? 古今東西の事例から学ぶアイデアのひらめき方

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

ひらめきスイッチ大全』(知的創造研究会著、編集、日経ビジネス人文庫)は、2013年に発行された同名の書籍(サンクチュアリ出版)を文庫化したもの。ちなみに執筆と編集を手がける「知的創造研究会」とは、本書のために結成された編集者・ライター集団なのだそうです。

アイデアを生み出すためには

1 情報や知識をインプットすること

2 いつもと違う視点で物事を見ること

3 考え抜いたあとに、気をゆるめること

これが王道です。

でも生み出せない。生み出したい。 そんなときは、偉大な発明をした、作品を残した、商品を開発した、 先人たちの“発想の型”を参考にしてもいいかもしれません。 (「はじめに」より)

そこで本書では、古今東西のあらゆる「アイデアのひらめき方」をまとめているわけです。きょうはそのなかから、印象的ないくつかをご紹介することにしましょう。

無料にしたらなにが起きるか考えてみる

商品に対して代金が発生するのは商売の常識ですが、そんな「当たり前」にあえて着目してみることも大切。たとえば、本来であれば料金が発生するものを、無料にできないかと考えてみるという発想がそれにあたります。

有料のものを無料にすると、得られるはずの収入はなくなります。つまり、それがデメリット。では、メリットはなんでしょうか? 

無料であるために利用しやすくなる。人々がそこに集まりやすくなる。 それは、下手な広告よりもずっと宣伝効果が高い、そう考えることもできると思います。(58ページより)

その一例として挙げられているのが、2011年にゆるキャラグランプリで1位を獲得した熊本のPRキャラクター「くまモン」。くまモンのロゴやキャラクターは、熊本県の許可が下りれば著作権使用料なしで利用可能。そのため、さまざまな商品に使われ、あっという間に世の中に広がったわけです。

ある調査によれば、「熊本産のものを探すようになった」「熊本県に旅行するようになった」などの声も聞かれるようになり、熊本県の認知度が明らかに上がったのだとか。その経済効果は数百億円に上り、熊本県のPRという役目を十分に果たしたのです。

無料と聞くとマイナスのことばかりを考えてしまいがちですが、それによってなにが得られるかを考えるという方法もあるということ。それも立派なアイデア発想であり、ときには大きな効果をもたらすことがあるのです。

常識を逆さまにする

私たちは社会通念や一般常識を、自然の法則と同じように「当たり前」のことと考えているもの。だとしたら、それを逆さまにして固定観念を覆してしまえば、誰も考えつかなかったようなアイデアに行き着くことができるかもしれません。

たとえば辞書は、単語の頭から五十音順に引くのが「当たり前の常識」。しかし、それをひっくり返したのが岩波書店の「逆引き広辞苑」です。

「らくさ」「らくざき」「らくざは」「らくざばう」 「さくら」を引くために、「らくさ」にアクセスすると、桜、黄桜、葉桜、姥桜と、さまざまな桜を一度に見渡すことができます。

「すなこ」「すなこいい」「すなこいかつ」 これは「こなす」「言いこなす」「使いこなす」です。 「こなす」を付ける動詞はどういうものがあるだろう、という疑問を解決してくれます。(88ページより)

「逆引き広辞苑」がつくられたのは、逆順に並べると類縁関係にある言葉がまとまって一覧できるため。そして、これがヒットしたのは、なによりも「当たり前」をひっくり返した衝撃によるものが大きかったわけです。

とにかく数に重きを置く

アイデアを量産させるための手法として有名なのは、「ブレーンストーミング」。何人か参加者が集まり、互いの意見を否定することなく、あらゆるアイデアを出し合うというものです。こうすれば、自由に発想できることもあってか、思いがけない考えが浮かんだりするわけです。

ここからもわかるとおり、アイデアを考えるときは(仮にそれがくだらないものであったとしても)「数多く出す」ことが大切だということです。

考えはじめると、わりとスムーズにいくつかのアイデアを思いつくと思います。 しかし、それらはそれまで見聞きしてきた記憶の中から無意識的にピックアップされたもので、すでに誰かが思いついてしまっていることがほとんどです。 発明王と言われたエジソンは、この真実をよく理解していたのか、自らに「アイデア・ノルマ」を課して研究に励んでいたといいます。 部下に対しても同じで、そんな過程から「10日ごとに小さな発明品を1つ、半年ごとに大きな発明品を1つ」という有名な言葉が生まれました。(152ページより)

笑ってしまうほどバカげたアイデアでもいいのだそうです。なぜなら組み合わせ次第でおもしろいものに生まれ変わるかもしれず、それがきっかけとなって新しい発想につながるかもしれないから。

とにかく数を、「アイデア・ノルマ」によって生み出すことが大切だという考え方です。

6つの目を持つ~6観点リスト~

短時間でアイデアを発想しようとすると、考え方が固定化されてしまい、ありきたりなものしか出てこなくなったりするもの。あとになって、「こういう視点もあったのか」と悔やんでしまうこともあるでしょう。

しかし、「6観点リスト」という方法を使えば、短時間でも多くの観点からアイデアを思いつくことができるのだといいます。

まず、解決したい課題(テーマ)を設定します。 そのうえで、「人」「もの」「プロセス」「環境」「意味・価値」「五感で認識するもの」という観点の順番に具体的に気になることを書き出していきます。 (217ページより)

書かれた言葉や考えは、アイデアのパーツとなる、いわば初期的な思いつき。その思いつきを結びつけながらアイデアを考えていくことによって、「よく考えればほかの発想もあったのに」ということはぐっと減っていくといいます。

新しく社内の打合せスペースをつくることになり、そのアイデアを考えていたとしましょう。そのとき気になる「五感で認識するもの」が「音」だとしたら、どんな音が打ち合わせの進行を妨げ、どんな音であれば集中力が保たれるのかを考えていくと、心地よい空間をつくるためのアイデアが生まれるかもしれないということです。

「3」を意識する

「集中できず、うまくものを考えられない」という悩みは誰にでもあるもの。しかし、そんなときは「3」を意識するといいのだそうです。

具体的には、1日を午前中・午後・夕方以降に分けてしまいます。

午前中…過去の仕事

午後…進行中の仕事

夕方以降…今後へのタネまき (428ページより)

こんなふうに、それぞれ取り組む仕事内容を変えてしまうといいというのです。たとえば営業職なら、午前中に、すでに発注が決まった仕事に関する業務をこなし、午後には現在仕掛けている企画のプレゼン準備。夕方以降は、新規営業先の開拓や、営業戦略の社内打合せなど、未来につながる仕事に取りかかるというようなこと。

こうして大きなくくりで仕事を分けてしまうことで、1日のなかで仕事内容がどんどん変わり、頭のなかがリセットされやすくなるということ。また、3分割するためには、仕事の全体像を把握することが必要。そのため、自然と仕事の進行状況も整理するようになるというわけです。

すぐ実践できるように、さまざまな発想法を簡略化して紹介した内容。そのため、「ひらめき」をキャッチするには最適。コンパクトな文庫ですから、持ち歩いて時間のあるときにページをめくってみてはいかがでしょうか?

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年5月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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