<東北の本棚>謎の華道家に光当てる

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<東北の本棚>謎の華道家に光当てる

[レビュアー] 河北新報


本原流 武田朴陽の生涯
せとかつえ[著]
けやきの街

 米アップル創業者、故スティーブ・ジョブズの愛読書「弓と禅」を記したドイツ人哲学者オイゲン・ヘリゲル。大正から昭和にかけて東北帝大講師として仙台で暮らしたヘリゲルに、日本文化に関して少なからず影響を与えた華道家(花道家)の武田朴陽(ぼくよう)(1875~1935年)の生涯に迫る。今や歴史に埋もれた謎の人物に光を当てたのが本書だ。
 著者はふと抱いた小さな疑問を発端に、謎を解く手掛かりを探し始める。取材、文献調査…。飽くなき探究心で迫っていく過程は行動力と臨場感にあふれ、著者に同行している錯覚さえしてくる。
 朴陽は本原遠州流を基礎とする本原流の開創者。一流一派に拘泥せず、華道で禅に通じる幽玄の世界を目指したという。
 従来の一子相伝、口伝とは違う形で生け花の神髄を伝えるべく印刷物「御國(みくに)之花」を著し、当時の挿花(そうか)(生け花)の基本を解説。収録された自筆の彩色画も写真で紹介されており、能にも造詣が深かった朴陽の「わび」の境地がうかがえる。印刷物は海外でも販売されたそうだ。
 仙台で開かれた門下生挿花大会での本人の発言にも紙幅を割いた。「すべて天より我に対して与えられたものに対して感謝の心を抱き天命に従って歩むことが、是が真の風流である」など、内容は日常における精神性にまで及ぶ。
 生い立ちや実業家としての顔、土井晩翠や弓聖・阿波研造といった在仙の文化人との幅広い交友関係など、人物像を多角的にあぶり出そうと試みる一冊。同時に、太平洋戦争時の空襲で失われたかつての仙台のまちの面影、当時の人々の息遣いも文中によみがえらせた。
 著者は仙台市生まれ。1978年に月刊タウン誌「けやきの街」を創刊。編集者、ジャーナリストとして活躍し著書多数。私設の宮城個人史図書館(仙台市)の館主。
 けやきの街022(302)5020=1500円。

河北新報
2018年5月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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