お金は「感謝のしるし」。人生におけるお金に関する大事なこと

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お金は「感謝のしるし」。人生におけるお金に関する大事なこと

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

1. お金は人生の自由を拡大する手段だが、あくまでも手段にすぎない。

2. お金は、たんたんと合理的に扱うといい。

3. お金の運用は、他人(プロを含む)に任せるよりも自分で行う方が簡単であり、安心でもある。

(「はじめに お金に関する3つの結論」より)

この3点は、『人生を自由に生きたい人はこれだけ知っていればいい お金で損しないシンプルな真実』(山崎 元著、朝日新聞出版)の著者の、お金についての結論。本書も、この結論を読者に具体的に納得してもらうために書かれたのだそうです。

ご存知のとおり、著者は資産運用を専門とした著名な経済評論家。まず興味深いのは、そのような立場に基づき、「お金の正体」を次のように定義づけていることです。

「誰かに何か『いいこと』をしてあげた時に、その『感謝のしるし』としてもらえるものがお金だ」 (「はじめに お金に関する3つの結論」より)

いったんお金が入ると、今度は自分が誰かのためにお金を使うことができます。誰かが自分にしてくれた「いいこと」に対し、「感謝のしるし」を支払うということ。そしてそれを受け取った人は、また違う別の誰かに支払いをすることができます。そのように、社会をぐるぐるとめぐっているのがお金。「いいこと」と「感謝」との関係が、目の前の具体的な誰かのためだけでなく、大きく社会に広がっているのが、現在の経済というシステムだというのです。

そんな本書のなかから、きょうは基本的な考え方に触れた第1章「人生とお金で大事なことをざっくり抑えよう」に注目してみたいと思います。

若いうちは「稼ぐ力」を鍛えよう

人や社会に対して「いいこと」をして、「感謝のしるし」としてもらえるものがお金だといいますが、それは「お金は他人のために働いて稼ぐもの」だということ。まとまったお金を手に入れたいなら働かなくてはいけないわけで、著者はまず「働いて稼ぐ」ことについて触れています。

働いて稼ぐ際に重要なのは、職業の選び方。たとえば、これまで働いた経験のない学生でも、ファストフードのアルバイトなら簡単に雇ってもらえるかもしれません。が、そうしたアルバイトで高額の報酬を期待するのは困難。なぜなら、同じ仕事をできる人がたくさんいるからです。

一方、英語が話せて、さらに法律の専門知識がある人だったとしたら、該当する人の数はぐっと減り、給料は高くなるはず。雇う側も代わりの人材を見つけるのが大変なので、雇われる側がより高い賃金を要求することも可能です。

仕事は、おおまかに言うと、時間とお金の交換なので、たとえアルバイトでも、多くの時間を費やすと、そこそこのお金が貯まるかもしれません。しかし、若い頃の時間は貴重です。将来により効率よく稼ぐためには、例えば仕事で使える専門知識を習得するのに時間とお金を使う方が合理的な場合が多いでしょう。 一般に教育に対する投資は、より早い時点で行う方が有効です。なぜなら、身につけた内容をより長い期間使うことができますし、若い頃の方が吸収の効率がいいからです。(17ページより)

つまりお金を稼ぐには、知識と戦略が必要だということ。そして著者は、「価値ある人材」になることの大切さも強調しています。それは、どのような人材のことを指しているのでしょうか?

上記の例でいえば、ファストフード店でアルバイトができる人よりも、英語で法律の専門的なやりとりができる人のほうが価値があるわけです。理由はもちろん、人数が少ないため競争力があり、価値があるから。こうしたことからもわかるとおり、これから働くにあたっては、「価値のある人材」を意識すべきだというのです。(16ページより)

「自分への投資」を意識する

人材の価値とは、まず第一に、具体的になんらかの仕事ができる「能力」。たとえば経理マンなら、「会計や簿記ができる」「税務の知識があり税理士などの資格を持っている」などが能力にあたるわけです。

加えて人材としての価値が評価されるためには、自分が持つ能力を使って実際にしごとをしたという「実績」が必要。実際に会社の決算をしたり、税務の仕事を何年か担当するなどによって実績を積むことが求められるということ。

例を挙げれば、ワインのソムリエ資格などでは、実技試験に合格することのみならず、お酒を提供する飲食店での実働経験も必須。能力を持っているだけではダメで、実績とセットになってはじめて人材価値だということです。

能力を身につけるにはそれなりの時間がかかりますし、実績を作るのにもまた時間が必要です。そのため、自分の価値を高めるための投資は、なるべく若いときに始める方が有利です。若い方が新しいことを覚えるのが早く、吸収力がある等ことももちろんありますが、何よりも身につけた能力を長い期間使えるということが大きな理由です。若い時には特に「自分への投資」を意識しましょう。(21ページより)

当然のことながら、稼いだお金を「いま使う分」「将来使う分」とに分けて、ある程度のお金を貯めていくことはどうしても必要です。だからこそ、若いうちから貯蓄の習慣をつけておくのは大変いいこと。

しかし、若手のころから節約しようと「使わない」ことばかり考えるよりも、場合によっては人材価値を高めるために積極的にお金を「使う」ことを考えるのが有効な人生戦略になる。そのことをも意識しておいたほうがいいと著者は主張しています。(21ページより)

最初の職場の選び方

「価値のある人材」になるためには、それなりの時間がかかるもの。時間がかかるということは、計画と戦略が必要で、かつ役に立つ可能性が大きいということ。だとすれば、具体的にはどうすればいいのでしょうか?

ひと昔前であれば、学校を卒業してひとつの会社に就職し、ずっと定年まで面倒をみてもらうというような人生設計がありました。ところが社会や経済の変化が激しい現代において、それを期待することは困難。若いうちから自分で自分のキャリアを設計することが求められるため、自分の時間と努力を投資し、自分を「価値のある人材」にしていくことが最も安心で効果的だということ。

最初の職場選びは大変重要です。たとえば、誰もが名前を知っている人気の企業がいいとか、仕事が楽で休みが取りやすい方がいいとか、いろいろな判断の仕方があると思いますが、「価値のある人材」になるために理にかなうよい職場はどういう職場なのかと考えるなら、1.優秀な人が周りに多くて、2.忙しい職場、だと言えます。(24ページより)

まず1.優秀な人が多く働いている職場では、その人をお手本にできたり、よい競争相手にすることが可能。そういう人の存在が、自分の仕事の向上につながるということ。そして2.新しい仕事を覚えるには、その仕事を何度も実行する機会が必要。「量より質」とはいうものの、量を伴わない質の向上はないわけです。

つまり、適度に忙しいことは重要(忙しすぎて過労死してしまいそうな職場はもちろん論外ですが)。「ワーク・ライフ・バランス」も重要ではあるものの、最初のうちは忙しい職場で自分を磨くことが、端的に言って「得」だということです。

逆に多くの場合、若いころから「ワーク・ライフ・バランス」を強調するような人には、「伸びしろ」が感じられないと著者は指摘しています。(24ページより)

お金を借りるということ

お金を使いたければ、働いて貯めてから使うのが大切な原則。しかし、手元にお金がないけれど、「どうしても、いまこれを」という必要に迫られたとき、世の中には「借金をする」という選択肢があります。50万円のものが欲しいけれど、いまはお金がないとしましょう。そんなとき、借金をすればすぐに買えるわけです。

ただしお金は、ただで借りられるわけではありません。1年間借りるとすると、1年後にそれを返すときには、借りた額50万円に金利がプラスされ、たとえば55万円にして返済することになるということ。

お金を稼げるようになるには、それなりの時間がかかります。また、実際に働いてお金を貯めるのにも時間がかかります。でも借金をすると、そんな時間を飛び越えられるわけです。つまり借金とは、「金利」という代金を払って、時間を買うこと。

でも忘れてはならないのは、「借金の際の時間の値段が必ずしも安くない」ということだと著者は強調しています。端的に言えば、金融のプロフェッショナルがリスクを取って投資してようやく得られる利回りの3倍分を、リスクゼロで、確実に損するのがカードローンやキャッシングのような借金だということ。(29ページより)

奨学金を借りるのは悪くない

ただし、すべての借金が悪いわけではなく、「悪い借金」と「悪くない借金」を見分けるポイントは「計算が立つかどうか」だといいます。ある時間に対してある金額のお金を支払うことが、結果として合理的に判断できる場合、それは「悪くない借金」だということ。個人の場合だと、それにあたるのが奨学金だそうです。

たとえば大学生が、飲食店で時給1100円のアルバイトをするとします。多くの大学生は、数年で卒業し就職します。そして、就職数年後には年収500万円程度のサラリーマンになる人が多い。これは、年間250日の労働で1日を8時間労働として時給に換算すると2500円です。 つまり、学生時代に2時間以上かけないと稼げなかった金額が、数年後には1時間で稼げるようになるということです。こうしたことがある程度確実に分かっている場合、学生時代に奨学金を借りて使い、時間あたりに稼げる効率がよくなってから返済するという計画には合理的な計算が立ちます。奨学金は「いい借金」になる可能性が十分にあります。(36ページより)

教育を受けることでメリットを得るのは、教育を受けた本人。「奨学金という借金」でお金をつなぎ、稼げるようになってから返すなら、計算の立つ借金をしたということになるという考え方。そして学生時代に、アルバイトをしている学生よりも多くの勉強をすることで人材価値を上げられるなら、それは十分価値のある選択肢だということです。(35ページより)

このように、お金について知っておきたいことをわかりやすくまとめた内容。若いビジネスパーソンにとっては特に、読んでおくべき1冊であると言えそうです。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年5月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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