[本の森 ホラー・ミステリ]小林由香『罪人が祈るとき』/『隠蔽人類』鳥飼否宇/『テュポーンの楽園』梅原克文

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[本の森 ホラー・ミステリ]小林由香『罪人が祈るとき』/『隠蔽人類』鳥飼否宇/『テュポーンの楽園』梅原克文

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 小説推理新人賞受賞作を表題作とする連作短篇集『ジャッジメント』で一昨年デビューした小林由香。復讐が合法化された社会を描いた衝撃作だったが、第二作『罪人(つみびと)が祈るとき』(双葉社)では、また形を変えて復讐心を掘り下げている。今回は、いじめ(というか暴行や恐喝)の渦中で死を考えている時田という男子高校生と、かつていじめにより子供を自殺で失った風見という中年男の視点を中心に、加害者側の意識の軽さや被害者側の絶望感、周囲の人間たちの及び腰な姿勢を描いた。加害者たちを殺して自分も死のうという時田の現在進行形の物語と、息子を自殺へ追い込んだ犯人を捜す風見の物語は、それぞれにミステリとして読ませると同時に、お互いに絡み合ってさらなるうねりを生じさせ、心に響く結末へと到達する。巧みに構成された一冊なのだ。そのうえで、いじめの加害者への怒りを強く感じさせるだけに、復讐の是非を深く考えさせる作品となっている。圧巻の読み応えだ。

 鳥飼否宇『隠蔽人類』(光文社)も視点が切り替わりながら進んでいくが、内容も読後感も全く別物だ。第一話の舞台は南米アマゾンの奥地。かつてアメリカの冒険家が一度だけ接触したというキズキ族を再発見しようと現地に向かった日本の調査隊の物語である。彼等はそれらしき民族との接触に成功し、調査も進めたが、とんでもないデータを検出してしまう。その後、首斬り殺人が発生し――という目まぐるしい展開の第一話は、消去法で殺人犯を特定していくミステリとして一応は決着するのだが、ラストが破壊的だ。“これをやっちゃって、先が続くの?”というほどなのだが、そこは鳥飼否宇、第二話であっさりと受け止め、密室を巡る謎解きに仕立て上げる。が、結末でまたもや大いなる衝撃だ。第三話でクレッシェンドにクレッシェンドを重ね、第四話では驚愕の大ツイストが読者を襲う。そして第五話の巨大なる衝撃。いやあ、ホラ話って愉しいなぁ。

 未知の存在はこちらにも登場する。梅原克文の七年ぶりの新作『テュポーンの楽園』(角川書店)だ。物語の構図はシンプル。織見奈々三尉を中心に、自衛隊や警察がテュポーンと呼ばれる怪物と闘う物語だ。それだけで、二段組六四三頁の大作を読ませるのである。舞台となるのは、東京都阪納市の安須という人口九〇〇人ほどの町である。この限られた場所での戦闘を圧倒的な迫力で描きつつ、怪物の成り立ちや“存在意義”などを徐々に明かしていく著者の手つきは鮮やか。強大な敵と戦うための知恵――様々な知識に裏打ちされた知恵――でも愉しませてくれる。一九九三年に『二重螺旋の悪魔』に胸躍らせ、その後『ソリトンの悪魔』『カムナビ』等に狂喜したが、本作にもまた満足である。

新潮社 小説新潮
2018年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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